日が暮れた頃に屋敷に帰ってきた聖は、すでに紅蘭のことを聞いていたらしい。
凜花の様子がおかしいことに気づくと、早々に人払いをして凜花の部屋でふたりきりになり、彼女のことに触れた。


「すまなかった。屋敷から紅蘭の気配を感じていたんだが、どうしても戻ってこられなかったんだ……」

「ううん、聖さんが忙しいことはわかってるから」


凜花は、彼からの謝罪なんて望んでいなかった。
聖が紅蘭から守ってくれていたことは、昼間の彼女の言動から感じられた。
なにより、彼が悪いとは思えないからである。


「紅蘭になにか言われたんだな?」


きっと、ここで凜花が隠しても、桜火から報告が入るだろう。
庭では少し離れてもらっていたから会話は聞こえていないはずだが、そもそも紅蘭は桜火の前でつがいの件に触れていた。
そう思った凜花は、少し悩んだ末に素直に頷いてみせた。


「なにを言われた?」

「……聖さんみたいなすごい人のつがいになる覚悟があるのか……って。それから、聖さんが愛してるのは私じゃなくて、私の中にある凜さんの魂だって」


聖の表情が、苦々しげに歪む。


「紅蘭にはきつく言っておく。凜花はなにも気にしなくていい」

「紅蘭さんのことはいいの」

「どうして?」


凜花は口を噤む。
上手く説明できないのもあったが、紅蘭は彼を想っている。その上、凜の親友だったと言っていた。
紅蘭にしてみれば、いくら自分が聖のつがいとはいえ、不満を抱いて当然だろう。


「それは言えない……。でも、ひとつ訊きたいことがあるの」

「訊きたいこと?」