「ちょっとさすがにやばくない?」

「これくらい平気だって。あいつ、絶対に辞めないし。どうせ上司にも報告できないから。制服のときも取り合ってもらえなくて、すぐに諦めたみたいだし」


ようやく仕事を終えた凜花が更衣室の前に着いたとき、不穏な声が聞こえてきた。
またなにかされていることは安易に想像がつき、ドアを開けるのは怖かったが、万が一にもロッカーからなにか盗まれるようなことがあればシャレにならない。


意を決してドアを開けると、茗子を含めた三人が凜花のロッカーの前にいた。
あろうことか、凜花のロッカーが開いている。彼女たちが鍵を持っているはずがないのに……。


「なにしてるんですか? そこ、私のロッカーですよね?」

「別に~。勝手に開いてたし、バッグも落ちてただけなんだけど」


しらばっくれる茗子たちの足元には、凜花のバッグが落ちている。
貴重品は社内でも持ち歩いているが、なにかなくなったものはないかと不安になった直後、手帳の傍に落ちているものに目を留めた。


グチャグチャに丸められた紙のような物体。
震えそうな手でそれを取り、恐る恐る開いていく。
嫌な予感が当たり、凜花の中に怒りが沸き上がった。


「な、んで……こんなこと……」


凜花にとって大切な、たった一枚の写真。
凜花と両親が写っているそれは、凜花が肌身離さず持っていたもの。
眠る前には枕元に置き、出かけるときには必ず手帳に挟んでいた。
茗子だって、それを知っていたはずだ。
怒りで震えるこぶしを握り、涙で歪む視界に彼女を映す。


「あんたが悪いんじゃない」


その言葉を聞いた瞬間、勢いよく立ち上がって右手を振り上げていた。
パンッ!と乾いた音が鳴り響き、茗子の顔が右側に向く。一拍置いて左頬を押さえた彼女が、凜花に掴みかかった。


「なにするのよっ!」


ロッカーに凜花の肩がぶつかり、髪を引っ張られる。抵抗する間もなく茗子の左手が顔に届き、凜花が上げた音よりも遥かに大きな音が響いた。
凜花の脳がぐらぐらと揺れるが、必死に抵抗する。