「確かに、私にはまだつがいがどういうものかはわかりませんし、ピンと来ていません。だから、覚悟なんて決められません」

「そうでしょうね」

「でも……前に紅蘭さんに会ったときとは違って、今は聖さんのことをもっと知りたいと思ってます。聖さんともっと一緒にいたいって感じてます」


紅蘭を真っ直ぐ見つめる凜花に、彼女が意表を突かれたような顔をする。


「……あなた、少し変わったわね」

「え?」


きょとんとすると、紅蘭は「でもだめよ」と凜花を睨む。


「私は、凜の親友だったの。聖のつがいに選ばれたのがあの子だったからこそ、聖を諦めようと決めたわ。それなのに、千年も待っていた聖のつがいが人間ですって? 番う相手が人間であること自体は今までもあったけど、聖のつがいなら話は別よ」


さらには、憎しみに満ちた双眸を向けられた。


「天界では、聖が決めたことなら誰も逆らったりはしない。ましてや、つがいの話ならなおのこと。龍にとってつがいというのは、何者であっても当人たち以外の干渉を許さないものだからよ。でもね、これだけは覚えておいて」


彼女の表情がほんの一瞬和らぎ、次いで冷酷な笑みを湛えた。


「聖に愛されているのはあなたじゃない。あなたの中にある、凜の魂よ」


凜花の顔が強張る。


「あなたの中に凜の魂がある限り、聖はあなたじゃなく凜を愛し続けるわ」


心には紅蘭の言葉が深く突き刺さった。
聖がくれた言葉を、凜花は信じている。
あのときの彼の瞳は揺るぎなく真っ直ぐで、紡いでくれた想いはきっと嘘ではないと感じたからである。


その一方で、不安と疑問もあった。
自分の魂が凜のものなら、彼女の魂はこれからもずっと自分の中にあり続けるのだろうか――と。
その答えは、凜花にはわからない。


黙ったままの凜花を残し、紅蘭は凜花の傍を離れる。
すぐに桜火たちが駆け寄ってきたが、凜花はしばらくの間なにも言えなかった。