凜花はこれまで、龍神という存在がどういうものなのかをよく知らなかった。
というよりも、わからなかったのだ。


屋敷の中にいる者たちはみんな聖を慕っているし、彼が主だというのもわかる。
街に出たときに聖が受けていた視線を考えれば、彼はみんなの上に立つ者だというのも理解はしていた。
ただ、それはなんとなく会社の社長のような、凜花が知っている立場に近い形なのだと思い込んでいたのだ。
しかし、紅蘭の話を聞けば、それとはまったく違うことが伝わってくる。


「龍はね、古来から特別な生き物だと言われているの。小さな息吹ひとつで風を呼び、啼き声で竜巻や雷雲を起こし、怒りとともに雷を落とす――と」


要するに、自然に干渉できるということだろうか……と凜花は想像する。
竜巻や雷雲、雷は、龍が生み出すものなのか……と。
けれど、残念ながら想像はどこまでも想像でしかなく、あまりピンと来なかった。


「龍の中にはそれすらできない者もいるけど、聖は別格よ。龍はそれぞれに性質があって、私や桜火は火を操るのが得意なの。でも、聖は違う。火も水も風も雷も……大地や空さえも操れるわ。聖がその気になれば、街ひとつなんて息吹で壊滅できる」


一方で、それだけ大きな話だということは理解できる。同時に、凜花の中にあった小さな不安を嘲笑うように煽られた。


「龍たちにとって、聖は尊敬と同時に畏怖の念を抱く存在なの。龍神という存在そのものというより、聖自身がそうなのよ。龍の力がないあなたにはわからないでしょうけど、普通なら近づくことも許されないような存在だと言われているわ」


そして、それはおもしろいほど激しくなっていく。


「そういう存在のつがいになる覚悟があなたにあるの?」

「そ、れは……」


即答できなかった凜花に、紅蘭が嘲笑を零す。


「ほらね、所詮はその程度なのよ」


彼女は、冷たい言葉で凜花を追い詰めていく。
けれど、凜花も負けてはいなかった。