「すみません……。じゃあ、とりあえずこのあたりで……」


どこまで行くのかなんて、凜花は考えていなかった。
自分から庭に誘っておいて紅蘭とどう話せばいいのかもわからず、ただ歩くことしかできなかったのだ。
ふたりから少し離れて、桜火と蘭丸たちがついてきていた。
桜火は警戒心をあらわにしており、蘭丸と菊丸はどこか心配そうな顔をしている。


「あの……」

「あなた、私がどうしてここまであなたにこだわるのか知りたい?」


凜花がおずおずと切り出せば、彼女がじっと見つめてくる。


「はい……」

「聖からなにも聞いてないのね」


紅蘭に対して、疑問がなかったわけではない。
にもかかわらず、彼女のことがよくわからないままだったのは、聖も桜火たちもそこに触れようとしなかったからである。
訊けば答えてくれたのかもしれないが、凜花はなんとなく尋ねられずにいた。


「私は、龍王院(りゅうおういん)の分家の者なの」

「龍王院?」

「それも聞いてないの?」


目を見開いた紅蘭が、小首を傾げた凜花に向かって鼻で笑う。


「龍王院は聖の名前よ。天界の中でも力を持つ一族で、聖はその本家の龍なの。分家はたくさんあるけど、龍王院の直系はもう聖しか残っていないわ」

「聖さんだけって……」

「天界は聖が龍神になる前まで争いばかりだったの。そのときに、直系の者が暗殺されたのよ」


突如出てきた物騒な言葉に、凜花の顔が強張る。


「でも、力のある聖が天界を治めるようになったことで、目に見える争いはほとんどなくなった。千年前に凜が亡くなったときには一度大きな争いが起きたけど、そのあとはずっと今みたいな感じが続いているわ」


そんな凜花に構わず、彼女は滔々と話していた。


「龍王院の血が龍の中でも強いのはもちろんだけど、それだけ聖に力があるからよ。なにより、天界では彼を慕う龍はとても多いの。聖の存在が争いばかりだった天界の均衡を保っているのよ」