風子を始め、料理係たちは『下拵えがうんとラクになった』と大喜びしている。
天界の者にとって珍しいピーラーは大人気で、みんなが使いたがるほど。
下拵えなんて下っ端の仕事なのに、皮剥きに立候補をする者が後を絶たなかった。
これには、凜花は驚きながらも笑ってしまった。


ちなみに、次はフライパンが欲しいと言われている。


『ふらいぱんがあれば、焼き物にとてもよさそうだもの。これまでは炭で焼くことが多かったけど、色々なものに使えそうね』


風子はワクワクした様子だったが、凜花はフライパンの作り方なんてまったくわからない。ピーラーとは違い、熱を通す調理器具は簡単には完成しないだろう。
それでも、みんなが喜んでくれるかもしれないと思うと、凜花の中には使命感のようなものが芽生えていた。


「姫様、このお菓子は食べたことがありますか?」


今日も夕食の支度が始まる時間に合わせて調理場に行くと、料理係から声をかけられた。彼女はまだ十代にも見える外見で、この中では一番若いようだった。


「いえ、初めて見ました」

「さっき分けていただいたのですが、姫様もおひとつどうぞ」

「ありがとうございます」

「これは、木の実を混ぜ込んだ饅頭です。餡がおいしいんですよ」


ころんとした小さな饅頭をひとつ分けてもらい、凜花は手でそっと割ってみる。
中には、白い餡とともにたくさんの木の実が詰まっていた。
一口かじってみると、餡のほんのりとした甘さと木の実の香ばしさが鼻から抜け、思わず笑顔になった。


「おいしい! これ、なんていうお菓子ですか?」

「小粒饅頭とか粒饅頭などと呼ばれています。老若男女に人気なんです」


その場にいた料理係たちも、みんな嬉しそうに頬張っている。
凜花も淹れてもらったお茶を飲みつつ、初めて食べた饅頭の味を楽しんだ。
それから、いつものように夕食の支度に取り掛かる。


まだ下拵えや皿洗いしか任せてもらえないが、贔屓されないことがかえって凜花のここでの居心地を好くしている。
恐らく、これも風子の采配だろう。
下拵えの担当の料理係たちは若い者が多く、それ故に馴染みやすい気もする。
とにもかくにも、聖と風子が作ってくれた居場所は凜花にやり甲斐を与えるとともに、笑顔にしてくれた。