「凜花が喜んでくれるのなら、これくらいお安い御用だ。むしろ、もっと早くこうしてやれたらよかったんだが、時間がかかってすまなかった」

「ううん。風子さんが仕事熱心な人だってことは、この半月でよくわかったから。お城の仕事を置いてこられないのも当然だよ」

「玄信も風子も、夫婦揃って仕事好きだからな。あのふたりは休むということを知らないんだ」

「それは聖さんもでしょ?」


凜花の言葉に、彼が片眉を上げてどこか不服そうにする。


「バカを言え。俺は仕事より凜花と過ごす方がずっといい。できることなら、仕事のことなど考えずに凜花と毎日一緒にいたいくらいだ。あんな奴らと一緒にするな」


聖が無責任な人ではないことは、もう知っている。
けれど、その言葉が嘘ではないこともわかっていた。


「そんなことしたら困る人がたくさんいるでしょ」

「そうだな。天界の治安を守るためにも俺が責任を放棄することは許されない。だが、凜花と四六時中を共にしたいと思っているのは本心だ」


真っ直ぐな想いを向けられて、凜花は心がくすぐったくなる。
さらにはふわりと笑いかけられて、胸の奥が甘やかな音を立てた。
彼から目が離せない。
覚えたての感覚に戸惑うばかりで、どうすればいいのかわからない。


それでも、凜花はもうとっくに気づいている。
聖に心が惹かれている――と。


彼の優しい微笑みを前にすると、胸の奥がきゅうっとなる。
嬉しいのに微かに苦しくて、幸せなのにわずかに切なくなる。
そして、聖ともっと一緒にいたい……と思うのだ。


ただ、つがいになる覚悟を決めるには、もう少しだけ勇気が足りない。
彼の傍にずっといたいと思う気持ちは、確かに心に強くあるのに……。つがいの契りを交わすということの重さに向き合うのは、まだ上手くできずにいた。


そのことに罪悪感を抱えることもあるけれど、聖は決して急かしてこない。
彼は、自分の想いを隠すことはなかったが、凜花の心が決まるまで待ってくれるつもりでいるようだった。
それを知っているからこそ、凜花の中には焦りが芽生え始めていた。