「みんな、姫様とお話してみたいと思っています。ですが、聖様のつがいとなれば、そう簡単に口を利くことは許されません。聖様はそんな風に禁じる方ではありませんが、臣下たちの間では暗黙の決まりのようになっていますから」

「そうだったんですね……」

「姫様の世話役の桜火は、ここではそれなりの地位があります。そして、ご存知かもしれませんが、玄信は聖様の右腕です。蘭丸と菊丸は特別に守護龍として任務を命じられていますが、他の臣下たちにとって姫様は気安く話せるお方ではないのです」


彼女の言葉は、凜花自身も感じていたことではあった。


蘭丸と菊丸はともかく、ここでは他の臣下に色々と命じている玄信と桜火ですら、凜花に気安く話しかけるようなことはない。
特に、ずっと傍にいる桜火は、あまり他の者を寄せつけようとはしなかった。
凜花の部屋には、相変わらず聖が許可した者以外が入れないこともあいまって、臣下たちとはそうそう会話をする機会もないのだけれど。


「でも、姫様がお話になられたいのでしたら、遠慮なく話しかけてみてください。みんな、最初は戸惑うかもしれませんが、きっと姫様のお人柄に惹かれると思います」

「そんな……」

「あら、姫様。私はもう、姫様のお人柄に惹かれていますよ」


風子が社交辞令を言うような女性ではないのは、昨日でなんとなくわかった。
けれど、自分自身のどこを見てそう思ってくれたのかがわからず、凜花は困ったように笑みを浮かべることしかできなかった。


「さぁ、お仕事を始めましょう。ぴぃらぁとやらはありませんので、包丁で皮を剥けますか?」

「頑張ってみます……!」


平成生まれで、令和の時代を生きてきた。
そんな凜花にとって、ピーラーは当たり前にあったもの。
包丁を使って野菜の皮を剥いたことはなかったが、彼女が丁寧に教えてくれたおかげでなんとか芋の皮を剥くことができた。


芋とはいっても、レタスのような黄緑色の皮で、ナスのような形をしている。凜花が知っている芋とは全然違い、これが芋だと言われなければわからないだろう。
驚きはしたものの、初めて入った調理場では知らなかった食材をたくさん目にし、それだけでも楽しかった。
凜花が剥いた芋の皮は分厚く、風子からは「これから頑張りましょう」と笑われてしまったが、彼女と過ごす時間は凜花を明るい気持ちにさせてくれた。