「風子が『臨月まではどうしても仕事を休みたくはない』と言うから、腹が大きくなるまでは屋敷内の食事を任せることにした。ここの料理頭には交代で城に行ってもらうため、風子には屋敷の食事を一任する」

「姫様のお好みのものを教えてくださいね」

「はい。ありがとうございます」

「それで、凜花」


聖は、風子と凜花の会話を聞いたあと、凜花に笑顔を向けた。


「凜花にも食事の支度を手伝ってもらおうと思うんだが、どうだ?」

「えっ!?」

「家事ならしてもいいと許可したが、誰にも仕事を与えてもらえなかっただろう?」

「う、うん」

「風子に事情を話したら、凜花の面倒を見ると言ってくれた。ただし、夕食の支度だけだが、天界のことを知るのに料理が少しは役に立つはずだ。もちろん、凜花次第だし、嫌ならしなくてもいい」

「やりたい! やりたいです!」


思わぬ提案だったが、凜花にとっては望んでいたこと。断る理由はなかった。


「あっ、でも……料理はそんなに得意な方ではないっていうか……」


施設にいたときには、皿洗いや片付けばかりで料理はさせてもらえなかった。
社会人になってからは節約のために毎日自炊していたが、料理アプリやSNS頼みだった。しかし、スマホがない今はそれができない。


「心配しなくていい。風子の料理の歴は相当なものだ。何人もの調理係を纏めていただけあって、教え方も上手いと好評だからな。ただし、ちょっと厳しいが」


冗談めかしたような聖に、風子が「まぁ聖様ったら」と眉を上げる。


「姫様に厳しくするはずがありません。きちんと優しくお教えします」

「そうか? この玄信を尻に敷ける者などなかなかいない。こんな堅物のつがいが務まるのは風子くらいだし、てっきり仕事でも厳しいかと思ったんだが」

「それはまた別の話です。だいたい、この人は私の言うことなんかに耳を貸しませんよ。聖様一筋ですから」

「ははっ、そう妬くな。玄信は昔からお前一筋だよ。それに、俺も風子になら安心して凜花を任せられる。玄信や桜火は反対ばかりするからな」

「あらあら。それでは姫様もお暇でしょう」


困ったような笑みを浮かべる風子に、玄信と桜火はバツが悪そうにする。
どうやら、ふたりにとって風子は手強い相手のようだった。