天界での生活は、穏やかな日々が続いた。
自分の過去を打ち明けたあと、聖から昔に会っていたことを聞き、そして彼の言葉に癒されたことによって、凜花の心は確かに救われた。
つらい思い出はまだ消えないが、少しずつ薄らいでいっているのを感じる。
それは間違いなく、聖のおかげに違いない。
あの日から、彼に対する気持ちが変わり始めたことは自覚している。
聖の微笑みにドキドキして、彼を見られるだけで嬉しいと思うようになった。
けれど、聖が城に行ってしまうと寂しくて、蘭丸や菊丸と遊んでいても桜火が綺麗に着飾ってくれても、彼が屋敷にいないと思うとため息が漏れる。
いつしか聖と会えることがなによりも楽しみになっていた。
そのうち、凜花は彼の帰宅が遅い日にも起きて待つようになり、『いってらっしゃい』と『おかえり』を必ず伝えるようになった。
それが、今の凜花にとって幸福を感じられるひとときでもあった。
「凜花、紹介したい者がいる」
そんな日々を送るある日、城から戻った凜花のもとに聖がやってきた。
その後ろには、玄信と知らない女性がいる。見た目は三十代中盤くらいだが、彼女も龍なら外見はあてにならない。
「彼女は風子だ。玄信の妻で、今日からここに住むことになった」
風子と紹介された女性は、穏やかな笑みを浮かべた。
「はじめまして、姫様。お噂はお聞きしておりましたが、とてもお可愛らしい方ですね。お会いできて光栄です。どうぞよろしくお願いいたします」
「はじめまして、凜花です。よろしくお願いします」
風子が深々と頭を下げ、凜花は恐縮しながらも同じようにする。
ボブほどの黒髪には葉をあしらったかんざしが挿されており、着物は淡い黄色の生地に緑色の葉が描かれている。どちらもシンプルだが、彼女によく似合っていた。
「風子は城で料理係をしていたんだが、少し前に子を宿してな。玄信と一緒にいられる方がいいだろうから、こちらに住んでもらうことにした」
以前は、玄信も桜火も城にいたと聞いたことがある。
ふたりとも、城で臣下たちと寝食を共にしていたが、聖が凜花のために信頼の置けるふたりを屋敷に寄越したのだとか。
その際、風子にも屋敷に移ることを提案したところ、城の調理場を仕切っていた彼女は『仕事の引き継ぎを済ませてから参ります』と返事をしたらしい。
自分の過去を打ち明けたあと、聖から昔に会っていたことを聞き、そして彼の言葉に癒されたことによって、凜花の心は確かに救われた。
つらい思い出はまだ消えないが、少しずつ薄らいでいっているのを感じる。
それは間違いなく、聖のおかげに違いない。
あの日から、彼に対する気持ちが変わり始めたことは自覚している。
聖の微笑みにドキドキして、彼を見られるだけで嬉しいと思うようになった。
けれど、聖が城に行ってしまうと寂しくて、蘭丸や菊丸と遊んでいても桜火が綺麗に着飾ってくれても、彼が屋敷にいないと思うとため息が漏れる。
いつしか聖と会えることがなによりも楽しみになっていた。
そのうち、凜花は彼の帰宅が遅い日にも起きて待つようになり、『いってらっしゃい』と『おかえり』を必ず伝えるようになった。
それが、今の凜花にとって幸福を感じられるひとときでもあった。
「凜花、紹介したい者がいる」
そんな日々を送るある日、城から戻った凜花のもとに聖がやってきた。
その後ろには、玄信と知らない女性がいる。見た目は三十代中盤くらいだが、彼女も龍なら外見はあてにならない。
「彼女は風子だ。玄信の妻で、今日からここに住むことになった」
風子と紹介された女性は、穏やかな笑みを浮かべた。
「はじめまして、姫様。お噂はお聞きしておりましたが、とてもお可愛らしい方ですね。お会いできて光栄です。どうぞよろしくお願いいたします」
「はじめまして、凜花です。よろしくお願いします」
風子が深々と頭を下げ、凜花は恐縮しながらも同じようにする。
ボブほどの黒髪には葉をあしらったかんざしが挿されており、着物は淡い黄色の生地に緑色の葉が描かれている。どちらもシンプルだが、彼女によく似合っていた。
「風子は城で料理係をしていたんだが、少し前に子を宿してな。玄信と一緒にいられる方がいいだろうから、こちらに住んでもらうことにした」
以前は、玄信も桜火も城にいたと聞いたことがある。
ふたりとも、城で臣下たちと寝食を共にしていたが、聖が凜花のために信頼の置けるふたりを屋敷に寄越したのだとか。
その際、風子にも屋敷に移ることを提案したところ、城の調理場を仕切っていた彼女は『仕事の引き継ぎを済ませてから参ります』と返事をしたらしい。