すべてを話し終えた凜花は、いつの間にか涙を浮かべていた。
泣くのはずるいと思うのに、ずっと苦しかった胸の内を吐き出せたからか、涙が勝手に零れていたのだ。


「……そうか」


聖が眉を下げ、親指で凜花の頬を伝う涙を拭う。


「ずっとつらかったな」


その優しい手つきと声音が、傷だらけの凜花の心を癒していくようだった。
悲しげに歪んだ瞳と目が合い、凜花よりも彼の方が傷ついているように見えた。


「でも……帰る場所がないのはともかく、必要としてくれる人がいないのは自分自身のせいでもあるから……」

「そんなことはない」


自分自身を責める凜花に、聖がきっぱりと否定する。


「凜花を助けなかった大人には大きな非があるし、凜花を傷つけた奴らだってそんなことをしてもいい理由などない。だから、凜花は自分を責めなくていいんだ」

「聖さん……」

「それに、俺が凜花を必要としている。凜花の帰る場所ならここにあるよ」


柔和な瞳が凜花を見つめ、優しい手つきで髪を撫でられる。
そんな風に言ってもらえるのは嬉しいのに、凜花の中には不安が芽生えた。


「それは……私が凜さんの生まれ変わりだから?」


聖は困ったように微笑んだが、すぐに凜花を真っ直ぐ見つめた。


「確かに、最初はそうだった。凜花を凜の生まれ変わりとして見ていた。だが、凜花と過ごすうちに、魂は凛と同じようでいても全然違う者なんだと思うようになった」

「え……?」

「凜花は凜花だ。俺はお前に惹かれている」


真摯な双眸が本心であることを語っている。
凜花の胸の奥が高鳴り、心がじんわりと温かくなった。


「俺は凜花が生まれたときからずっと、凜花の魂を感じていた。そして昔、一度だけ会ったこともあるんだ」

「えっ……! いつ……? 私はそんなこと、覚えてない……」


凜花が目を丸くすると、彼が着物の袖口に手を入れてピンク色のリボンを出した。


「これに見覚えはないか?」


ピンク色のリボンは、龍神社の池のところで撮った家族写真に写っている凜花が髪につけていたものである。きっと、母親が結ってくれたのだろう。


「俺と凜花が初めて会ったのは、凜花の五歳の誕生日だった。凜花は両親とともに家族旅行であの場所に来たのだ。もっとも、俺が引き寄せたようなものだがな」


聖は小さな笑みを零すと、リボンを凜花の手に乗せた。


「凜花はあの日、池に落ちて魂だけが天界にやってきた。あの池は普通の人間が使えるものではないし、いくら俺のつがいでも子どもだった凜花の体には大きな負担がかかり、肉体と魂が離れてしまったんだ」


リボンを見つめる彼が、懐かしげに瞳を緩めながらも眉を下げる。