茗子の手前、できるだけ愛想よく振る舞ってはいたものの、彼女の恋人とはふたりきりで話したこともなく、好きになられる理由もない。
だから、ある日突然始まったいじめの原因を知っても信じられなかった。


ところが、数日後にはそれを証明するように、彼女の元カレが会社の前にいた。
その日は、幸いにして茗子は休みだった。


『君を待ってたんだよ。前からいいなって思ってたんだ。よかったら、俺を恋愛対象として見てもらえないかな』


凜花はもちろん断った。しかし、彼がそう言っていたことを、現場を見ていた茗子の取り巻きが彼女に報告したらしい。
茗子のプライドの高さは、同僚なら誰もが知っている。事情を知った彼女がどういう風になるのかは、想像に容易かった。
以来、無視だけにとどまっていたいじめが、ヒートアップしていった。


私物のポーチを、汚水が張られたバケツに浸けられていた。
アイシャドウが粉々に割られていた。
一か月の間に、制服を二度も弁償することになった。
自転車のタイヤに釘を刺されていた。
いじめがつらかったのはもちろんだが、裕福とは程遠い凜花にとってこれらの被害による出費はとても苦しく、生活を圧迫した。


それでも、ただ黙って耐え抜いた。
きっと、いじめなんていつか終わる……と一筋の希望を信じて。


両親どころか身寄りもいないことで、学生時代にもいじめを受けてきた。
最初は小学生のとき。
持っている私物のほとんどが誰かのおさがりで、ボロボロだったり他人の名前が記されていたりしたことをからかわれたのがきっかけだった。


泣けばヒートアップし、みすぼらしい服を嘲笑うクラスメイトが増えていった。
担任に話せば『みんな凜花ちゃんと仲良くしたいだけ』と言われ、施設の職員に言えば面倒くさそうにされた。


凜花のいた施設の職員たちは、あまり仕事熱心ではなかった。
暴力こそなかったものの、周囲よりも鈍くさく泣き虫の凜花を疎ましがり、凜花がなにかを言うたびに煙たがった。
さらには、施設の子どもたちも大人を真似るように凜花を仲間外れにするようになり、学校ではいじめを助長させるようなことを言ったりもした。