聖は凜花とふたりきりで過ごすつもりだったようだが、蘭丸と菊丸にせがまれて四人で庭に行くことになった。
蘭丸たちは落ちていたハクの実を拾い、籐のカゴに入れている。
どうやら、料理係に頼んで砂糖で煮詰めてもらうと思っているらしい。


「お砂糖と煮詰めるとおいしいです」

「お餅につけて食べるです」


いわゆる、ジャムやコンフィチュールのようなものになるのだろうか。
お餅と合うのかはさておき、天界の食文化は日本食にとても近く、凜花にとってはそれがありがたかった。
ここで出てくる料理が癖のあるものばかりだとしたら、下界が恋しくなっていたかもしれない。ところが、雲飴を始めとして、出てくる料理は和食に近かった。
これは嬉しい誤算である。


凜花はもともと好き嫌いがほとんどないが、和食を好んでいた。
天界全体のことはわからないが、この屋敷で出てくるものは慣れ親しんだ味付けに近いものが多い。そういった意味ではひとつ安心材料ではあった。


「下界が恋しいか?」

「え?」


蘭丸と菊丸から少し離れた場所にいた凜花は、拾った三つのハクの実を抱えるようにして聖を見上げた。
彼の瞳は真っ直ぐだったが、そこには不安と心配の色が浮かんでいる。
少し考えたあとで、凜花は首を小さく横に振った。


「もし向こうに帰っても、頼れる人はいないから。両親も友達も……。仕事はまた探せるけど、私を必要としてくるような人はいない。だから……」


両親はともかく、友人がいないのはきっと自分のせいでもある。
確かに、友人ができにくい環境下に置かれてはいたが、それだってもっと努力していればなにかが変わっていたかもしれない。
そういった部分を怠ってきた自覚はあったため、この言い方はずるい気もした。


「もしよければ、聞かせてくれないか。あの日、凜花の魂があんなにも傷ついていた理由を」


それがいつのことを言っているのか、すぐにわかった。
聖と嵐山の池で出会ったときのことだろう。
凜花はわずかにためらいつつも、彼を見つめる。


優しい眼差しの聖が、興味本位で尋ねているわけではないのは伝わってくる。
戸惑いを抱えつつも、彼に聞いてほしいと思った。
ずっと誰にも言えずにいた、胸の内を――。