重い足取りで事務室に戻った凜花は、自身のデスクを見て目を見開く。
コーヒー塗れのお弁当箱が、ひっくり返っていたのだ。
「嘘っ……!」
昼休憩だったため、デスクの上は片付けてあった。
とはいえ、そこには社用パソコンがある。
慌てて持っていたタオルで水分を塞き止め、咄嗟にキーボードを持ち上げた。
幸い、裏側が少し濡れた程度で済み、恐らく壊れてはいないだろう。
ホッと息をつく凜花の背後で、クスクスと笑い声が漏れ聞こえてくる。
「やだー、信じられない。パソコンがあるんだから、先にデスクを拭くでしょ」
凜花の耳に届いたのは、大谷茗子の嘲るような声音。さきほどコーヒーの雨を降らせた張本人である。
その隣で「だよねー」と同調している同僚にも、静かな苛立ちが募った。
「制服買うお金がないから焦ったんじゃない? ほら、誰かさんって貧乏だし。天涯孤独の人って可哀想~。しかも、友達もいないなんて、私なら生きていけないかも」
茗子の声が、凜花の鼓膜を容赦なく叩く。
悔しさで唇を噛みしめたが、彼女は事務員の中心的存在のため、同僚の中に凜花の味方はいない。
ここで反論しても、凜花の立場が悪くなる一方なのは明白だった。
けれど、こんな状況になってもう三か月。
そろそろ心が折れてしまいそうだった。
ただ、凜花に逃げる場所などない。
同僚や上司に庇ってくれそうな人はいない。
プライベートでも、親身になってくれる友人や知人どころか、頼れる身寄りも誰ひとりいない。
茗子の言う通り、凜花は天涯孤独だからである。
コーヒー塗れのお弁当箱が、ひっくり返っていたのだ。
「嘘っ……!」
昼休憩だったため、デスクの上は片付けてあった。
とはいえ、そこには社用パソコンがある。
慌てて持っていたタオルで水分を塞き止め、咄嗟にキーボードを持ち上げた。
幸い、裏側が少し濡れた程度で済み、恐らく壊れてはいないだろう。
ホッと息をつく凜花の背後で、クスクスと笑い声が漏れ聞こえてくる。
「やだー、信じられない。パソコンがあるんだから、先にデスクを拭くでしょ」
凜花の耳に届いたのは、大谷茗子の嘲るような声音。さきほどコーヒーの雨を降らせた張本人である。
その隣で「だよねー」と同調している同僚にも、静かな苛立ちが募った。
「制服買うお金がないから焦ったんじゃない? ほら、誰かさんって貧乏だし。天涯孤独の人って可哀想~。しかも、友達もいないなんて、私なら生きていけないかも」
茗子の声が、凜花の鼓膜を容赦なく叩く。
悔しさで唇を噛みしめたが、彼女は事務員の中心的存在のため、同僚の中に凜花の味方はいない。
ここで反論しても、凜花の立場が悪くなる一方なのは明白だった。
けれど、こんな状況になってもう三か月。
そろそろ心が折れてしまいそうだった。
ただ、凜花に逃げる場所などない。
同僚や上司に庇ってくれそうな人はいない。
プライベートでも、親身になってくれる友人や知人どころか、頼れる身寄りも誰ひとりいない。
茗子の言う通り、凜花は天涯孤独だからである。