龍神のつがい〜京都嵐山 現世の恋奇譚〜

「もっと大きくなったらできるです」

「玄信様みたいに強くなって、聖様のお仕事をお手伝いするです」


しかし、蘭丸と菊丸はキラキラした目で玄信を見た。
玄信は「修行に励みなさい」と言っただけだったが、その顔はどこか気恥ずかしそうでもある。
聖と桜火が小さく噴き出し、凜花もつられてしまう。


「厳しい玄信もこいつらの純粋さの前では形無しだな」

「からかわないでください」

「そう言うな。こいつらにとってはお前が目標なんだ。たまには稽古でもつけてやれ」

「……御意」

「稽古ですか?」

「玄信様が教えてくれるですか?」

「聖様のご命令だ。今度、稽古をつけてやる」

「わぁーい!」


ため息交じりの玄信に、蘭丸と菊丸は大喜びで凜花のもとにやってきた。


「蘭たち、もっと強くなるです」

「姫様をお守りするです」

「うん、ありがとう」


ふたりのおかげで、凜花の心が和んでいく。


少しして料理屋を出ると、蘭丸と菊丸の希望でお菓子を買いに行くことになった。
ふたりは『雲飴(くもあめ)』というものが大好物らしく、聖に買ってもらっていた。
見た目は薄い水色で、雲のようにふわふわである。綿菓子によく似ているが、食感はまったく違うのだとか。
彼が凜花にも買ってくれたため、凜花は恐る恐る口にしてみた。


「んっ……! なにこれ、シャリシャリしてる……!」


どう見ても綿菓子のようにふわふわなのに、口に入れた瞬間に見た目に反した食感が広がっていった。
砂糖のような、かき氷のような……。とにかく、シャリシャリとした食感なのだ。


「それなのに、優しい味っていうか……甘いけど、いっぱい食べたくなっちゃう」

「天界の子どもたちに一番人気のお菓子なのだ。甘くておいしいだろう?」

「うん! ……あっ、はい」

「言い直さなくていい。むしろ、凜花の余所余所しい話し方は少し寂しいからな。今のように普通に話してくれる方が嬉しいんだが」

「えっと……じゃあ、善処してみます」


聖が嬉しそうに微笑み、凜花の胸の奥に甘い感覚が広がっていく。
甘ったるくて優しいそれは、まるで雲飴のようだった。


凜花を見つめる彼の目があまりにも柔和で、凜花はどぎまぎしてしまう。
時間は、優しく穏やかに、ゆっくりと過ぎていった。