少し吊り目がちだが、長いまつ毛に縁取られるような大きな二重瞼の目。しゃんと伸びた背筋に似合う、すらりと長い手足。
中でもひと際目を引いたのは、ウェーブがかかった金色の髪である。毛先まで艶があり、思わず見惚れるほどに綺麗だった。


「紅蘭様、お戻りくださいませ。いくらあなた様と言えども、ここへの入室は……」

「だから、まだ入ってないでしょ」


若い臣下が困ったように諭すが、紅蘭と呼ばれた女性は強気な態度を崩さない。


「紅蘭様、聖様は不在です。どうかお引き取りを」


桜火が笑顔を見せると、紅蘭はつんけんした表情で「知ってるわ」と返す。


「私は聖のつがいとやらを見に来ただけだもの。聖が会わせてくれないから、わざわざ会いに来てやったんじゃない」


ふすまを開けてからずっと、紅蘭の瞳は凜花を見つめたままだった。


「あなたが凜花?」

「は、はい……」


圧倒されるような美しさを前に、凜花はたじろぎながらも頷く。すると、彼女が眉をひそめた。


「本当にこんなみすぼらしい女が凜の生まれ変わりだっていうの?」

「紅蘭様」

「冗談でしょう? あの子とは似ても似つかないじゃない」


凜花を隠すように立ち上がった桜火が、紅蘭の前に立つ。
けれど、紅蘭は桜火の肩を押し、身を乗り出すようにして部屋に足を踏み入れた。


「あなたが凜の生まれ変わりだと聖は言うけど、私は認めない」


紅蘭の双眸からは、燃えるような怒りが滲み出ている。


「あなたは顔が少し似てるだけ。それ以外はまったく似てないわ」


まるで憎むように睨まれ、凜花の中に恐怖心が芽生えた。


「おやめください、紅蘭様」

「凜は本当に聖のことを愛してた。聖だってそう……。千年経っても忘れてないくらい、凜を愛してた。……いいえ、きっと今も愛してるわ」

「紅蘭様!」


制止する桜火の言葉は入っていないとばかりに、紅蘭は冷たく言い放っていく。


「ふたりは魂で求め合ってたの。あの子だからこそ、私は諦めたのよ」


その言葉に、呆然としているだけだった凜花が目を大きく見開く。
グッと眉を寄せた紅蘭からは、聖への思慕が見え隠れしていた。
彼女はきっと、彼に恋情を抱いているに違いない。色恋沙汰に疎い凜花でもわかるくらいには、表情から伝わってきた。