「えっと……」

「守護龍とは、その人を守護する者のことです。蘭丸と菊丸はまだ子どもですが、この年にしては龍の力が強いので、聖様が姫様の守護龍に……と」

「そうだったんですか」


戸惑う凜花に、桜火が補足するように説明してくれる。
初めて聞いた話だったが、当のふたりはハクの実を食べることに夢中だった。
彼女は蘭丸たちに聞こえないように声を潜めた。


「というのは、蘭丸たちへの理由付けです。もちろん、なにかあればふたりも姫様をお守りしますが、一番は姫様が安心して過ごせるようにという聖様の計らいです」

「え?」

「玄信様や私では遊び相手にはなりませんでしょう? 姫様のお相手には幼すぎますが、それでも少しは心が休まるだろう……とお考えになったようです」

「そうだったんですね」


見えないところでも与えられていた聖の配慮に、凜花の心が温かくなる。
凜花は、これからどうするべきか考えられずにいたが、やっぱり彼の傍にいたいという気持ちは変わらない。
そして、聖のことをもっと知りたいという思いが強くなっていた。
彼と番うかもしれないのなら、なおのこと。


街に行ったときの聖の言葉は、自然と信じられた。
一方で、このままずっとここにいてもいいのか……という思いはまだ残っている。
街で屋敷以外の人に会ったことにより、日が経つにつれて彼のつがいであるという事実に不安が芽生えてもいた。


正直に言えば、凜花は少しずつ聖のことが気になり始めている。
結婚なんて自分には遠いことのように感じていた上、相手が人間ですらないということに戸惑いが消えないが、彼のことをもっと知りたいと思うようになった。
自分が聖の恋人だった凜の生まれ変わりだということにも不安はあるが、ときおり感じる懐かしさのようなものが彼女の記憶なのだろうか……。


「姫様、もっと食べるです」

「ハクの実、好きになったですか?」


胸に燻ぶる鈍色の感情を、蘭丸と菊丸の明るさが救ってくれる。
凜花は笑顔を見せ、聖が帰ってきたらふたりを守護龍にしてくれたことへの感謝を告げようと決めた。