街へ降りてから二週間が経った。


凜花は相変わらず家から出ることを禁止されているが、働きたいと申し出た凜花の気持ちを汲んでか、聖は屋敷内のことだけはしてもいいと許してくれた。
ところが、家臣たちの誰に手伝いを申し出ても断られてしまう。
みんな、凜花を大切に思うのはもちろん、主のつがいに自分たちの仕事を手伝わすことなどできない……という感じだった。


家臣たちは、凜花が凜の生まれ変わりだからこそ、大切にしてくれているだけ。
それをわかっていても、今までの生活とは比べるまでもなく居心地が好い反面、どうしても心から寛ぐことはできなかった。


会社は辞めてしまったし、嵐山に訪れたときには身を投げ出すつもりでいた。
あのときのことを思えば、仕事すらなくなった今は失うものもなにもないからか、天界にいることに多少の不安はあっても帰ろうとも帰りたいとも思わない。
ただ、今の生活には不満に近い感情が芽生えていた。
至れり尽くせりのこんな生活を続けていくのは、どうしても気が進まなかった。


聖は相変わらず毎日城に出かけていくため、顔を合わせる時間はとても短い。
とはいえ、彼は少し前まで城に住んでいたのだとか。
この屋敷も聖のものではあるが、凜花が来る前まではたまに様子を見に帰ってくる程度だったらしい。
毎日帰ってくるのは、今は凜花がここにいるから。


桜火からそのことを聞いたとき、凜花は喜んでいいのかわからなかった。
凜花がいなければ、彼は余計な手間を増やさずに済んだはずなのだ。そう思うと、簡単に喜びをあらわにするのは憚られた。
ただ、城にいた桜火とは違い、ここに住んでいる蘭丸と菊丸は聖が帰ってくることを心待ちにしている。
それを知ったときは、心が救われた気がした。