桜火が手伝ってくれたおかげで、身支度はすぐに整った。
「姫様、楽しんできてください。屋敷の外には姫様にとって驚くこともあるかと思いますが、姫様が天界を気に入ってくださると嬉しいです」
「ありがとうございます」
彼女の言葉に、自然と笑顔になる。
「聖さん」
「やっぱりその着物がよく似合うな。凜花のために仕立てさせたんだ」
聖のもとに行くと、彼はすぐさま満足げに微笑んだ。
着物は、天界に来て初めて着付けてもらったものだった。
「凜花が来るまではその着物をただ見ているだけだったが、こうして身に纏う凜花が見られて嬉しいよ」
ごく普通に褒められて、凜花の胸の奥が高鳴る。頬が熱くなった気がして、慌てて目を伏せた。
「ほら、行こう。街は広いから、色々と見て回るにはいくら時間があっても足りないんだ」
聖が凜花の手を引き、屋敷の外へと向かう。
池の傍にある大きな赤い門が開くところを見るのは初めてで、凜花は少しだけドキドキした。
門が開くと、森に囲まれていた。
目の前には人力車のようなものが用意されている。
「街にはこれで行こう。俺が龍になって飛んだ方が早いんだが、凜花にゆっくり景色を楽しんでほしいから」
彼の言葉は本音だったのだと思う。
その上で、凜花を驚かせない気遣いもある気がして、笑顔で頷いた。
突如、聖が凜花を抱き上げる。
驚きのあまり声も出せなかった凜花を、彼は人力車の座席に乗せた。
クッションのように柔らかく座り心地が好い。
聖も隣に座ると、凜花はその近さにどぎまぎしてしまう。
車夫は、聖の臣下のようだった。凜花と顔を合わせるのは初めてだったが、二十代中盤くらいの男性は丁寧に挨拶をしてくれた。
幌が下ろされ、車夫が人力車を引いて走り出す。
聖の屋敷がまるで人目を隠すように森の中にあったことを、凜花は初めて知った。
「街まではどれくらいかかるんですか?」
「十分もかからない」
どこを見ても緑しかないが、たった十分で着くと聞いて少しばかり驚く。
「凜花、上を見てごらん」
彼が指差した方向に顔を向けると、空にはたくさんの龍が飛んでいた。
「えっ……」
「天界に住む龍たちだ。もともと屋敷には結界が張ってあるから、外から中の様子は見えない。凜花がこちらに来てからは、屋敷からも空を飛ぶ龍の姿が見えないようにしていた。庭にいても空しか見えなかっただろう?」
「はい……。でも、どうして?」
「凜花を怖がらせたくなかったのがひとつ。だが、一番は怖がったことによって、下界に戻りたいと思われたくなかった」
「姫様、楽しんできてください。屋敷の外には姫様にとって驚くこともあるかと思いますが、姫様が天界を気に入ってくださると嬉しいです」
「ありがとうございます」
彼女の言葉に、自然と笑顔になる。
「聖さん」
「やっぱりその着物がよく似合うな。凜花のために仕立てさせたんだ」
聖のもとに行くと、彼はすぐさま満足げに微笑んだ。
着物は、天界に来て初めて着付けてもらったものだった。
「凜花が来るまではその着物をただ見ているだけだったが、こうして身に纏う凜花が見られて嬉しいよ」
ごく普通に褒められて、凜花の胸の奥が高鳴る。頬が熱くなった気がして、慌てて目を伏せた。
「ほら、行こう。街は広いから、色々と見て回るにはいくら時間があっても足りないんだ」
聖が凜花の手を引き、屋敷の外へと向かう。
池の傍にある大きな赤い門が開くところを見るのは初めてで、凜花は少しだけドキドキした。
門が開くと、森に囲まれていた。
目の前には人力車のようなものが用意されている。
「街にはこれで行こう。俺が龍になって飛んだ方が早いんだが、凜花にゆっくり景色を楽しんでほしいから」
彼の言葉は本音だったのだと思う。
その上で、凜花を驚かせない気遣いもある気がして、笑顔で頷いた。
突如、聖が凜花を抱き上げる。
驚きのあまり声も出せなかった凜花を、彼は人力車の座席に乗せた。
クッションのように柔らかく座り心地が好い。
聖も隣に座ると、凜花はその近さにどぎまぎしてしまう。
車夫は、聖の臣下のようだった。凜花と顔を合わせるのは初めてだったが、二十代中盤くらいの男性は丁寧に挨拶をしてくれた。
幌が下ろされ、車夫が人力車を引いて走り出す。
聖の屋敷がまるで人目を隠すように森の中にあったことを、凜花は初めて知った。
「街まではどれくらいかかるんですか?」
「十分もかからない」
どこを見ても緑しかないが、たった十分で着くと聞いて少しばかり驚く。
「凜花、上を見てごらん」
彼が指差した方向に顔を向けると、空にはたくさんの龍が飛んでいた。
「えっ……」
「天界に住む龍たちだ。もともと屋敷には結界が張ってあるから、外から中の様子は見えない。凜花がこちらに来てからは、屋敷からも空を飛ぶ龍の姿が見えないようにしていた。庭にいても空しか見えなかっただろう?」
「はい……。でも、どうして?」
「凜花を怖がらせたくなかったのがひとつ。だが、一番は怖がったことによって、下界に戻りたいと思われたくなかった」