「言いたいことはまだあるか?」


唸るような玄信の低い声が、室内に響き渡る。


「ちょっ……! あなた、なにやってるんですか!?」


所長はギョッとした顔で立ち上がり、慌てて玄信のもとに駆け寄って手を掴んだが、玄信の右手はびくともしないようだった。


「凜花様への侮辱は我が主への侮辱と同様の意味を持つ。お前の言葉は我が主への侮辱同然。貴様の命をもって詫びろ」

「うぅっ……!」

「やっ、やめてくれ!」


苦しそうに顔を歪める茗子と血相を変えた所長に反し、玄信は静かな怒りを滲ませており、桜火は顔色ひとつ変えていない。
玄信と桜火にとって、さも当然というような態度に見えた。


「ま、待ってください!」


突然のことに呆然と立ち尽くしていた凜花が、我に返ったように玄信の腕を掴む。


「やめてください! りゅ……あなたたちの世界ではこれが普通なのかもしれませんが、ここはあなたたちがいる場所とは違うんです……!」


必死に懇願する凜花に、玄信は程なくして茗子から手を離す。
彼女は思い切り咳き込み、涙目でこちらを見ていた。
玄信は、茗子を一瞥すると、所長に目を向けた。


「お前からはこの女の匂いがするな。他にも女の匂いがするが、そっちは妻だろう? 伴侶がありながら、この女とも関係を持つとは……」

「は……?」

「今すぐ凜花様の言う通りにしろ。二度目の忠告はない」

「は、はい……!」


所長は悲鳴を上げそうな勢いだったが、動揺しながらも納得したようだった。
凜花は呆気に取られながらも、なんとか退職の手続きを済ませることができた。