「写真はわざとじゃないし、お弁当にコーヒーが零れたのだって手が滑っただけじゃない。被害者ぶるのはやめてくれない? っていうか、このふたりは誰よ?」


茗子はどうやら話を聞いていたようで、玄信と桜火を一瞥してから凜花を睨んだ。


「あんたさ、なに私はかわいそうですって顔してるわけ? 仲良くしてやった恩を忘れて、退職を私のせいにしないでよ! 気分が悪いっつーの!」

「仲良くしてやったって……」

「そうでしょ? 身寄りのないあんたに仕事を教えて、プライベートでも仲良くしてあげたじゃない。それなのに、人の彼氏を寝取るような女なのよね」

「そんなことしてない……!」

「あんたたちも付き添いかなにか知らないけど、この子に騙されない方がいいわよ」


茗子は、凜花の声を無視して玄信たちを見る。


「この子はね、私はかわいそうですって顔するのが得意なの。親がいないのはともかく、友達だってひとりもいないのよ? そのくせ、優しくしてやった恩を忘れて、人の彼氏に手を出すの。周囲から疎まれる本人に理由があると思わない?」


確かに、凜花自身にもそういったところはあるのかもしれない。
世の中には自分よりももっとつらい思いをしている人がいると頭ではわかっているが、心のどこかではいつも『どうして私ばかり……』と思っていた。
ただ、たとえそういう部分があったとしても、凜花は悪いことはしていない。


茗子の元カレは、勝手に凜花に好意を抱いていただけ。凜花自身がアプローチしたわけでも、彼となにかあったわけでもない。
制服を汚されたり、お弁当を生ゴミのようにされたり、果ては大切な写真をボロボロにされたり……。彼女が凜花に恨みを持っていたとしても、そんなことをされるような理由はないはずなのだ。


「だいたい、あんたみたいな奴、誰からも必要とされないわよ? 生きてる価値もないくせに――ぐぅっ!」


捲し立てるように話していた茗子の首に、骨ばった手が伸びた。