「それはお前の前世の記憶だ」

「え……? どういうことですか……?」


前世と言われても、ピンと来ない。むしろ、龍や天界に続いて戸惑いの種が増えてしまった。


「凜花……お前は千年前に亡くなった俺の恋人、凜の生まれ変わりなんだ」

「生まれ、変わり……?」


戸惑いを大きくする凜花に、聖が悲しげな瞳で頷く。
彼は今にも泣きそうに見えて、凜花まで胸の奥がギュッと掴まれたようだった。


「順を追って話そう」


聖は小さく息を吐くと、どこか遠くを見つめるように視線を上げた。


「もう千年も前のことだ。俺には凜という恋人がいた。凜と出会ったとき、一目でつがいだとわかった」


彼が言葉を紡ぐたび、凜花の胸が痛んでいく。
理由はわからないけれど、悲しみや苦しみが混じり合っていくようだった。


聖には凜という恋人がいて、ふたりは愛し合っていた。
やがてつがいの契りを交わすはずだったが、彼女はある者の手によって命を奪われてしまった。
凜の花が一面に咲く丘で、真っ赤な炎に焼かれて……。


「凜は、この凜の花が好きだった。契りを交わすはずだったあの日の朝、凜はひとりでお気に入りの丘に行き、凜の花を摘んでくるつもりだったようだ」


そのとき、あいにく彼や臣下たちの一部は仕事で出払っていた。
凜は、その間にひとり丘へと向かったようだった。


「俺が駆けつけたときには、もう間に合わなかった。凜につけていた臣下も虫の息で、凜自身も炎に包まれていたんだ……」


夢で見た光景の意味を理解する。
あれは、凜が見ていたものなのだ……と。


「凜の生まれ変わりとして生まれたのが、凜花――お前なんだ」

「そんなこと……」


はっきり言って、凜花にはまったく覚えのないこと。
けれど、聖の言葉を否定できない自分がいる。心のどこかでは、彼の話に覚えがある気がしていたのだ。


「夢で見たのは、凜が見ていた光景で間違いない。凜花は少しずつ前世の記憶を取り戻し始めているんだ」


夢だったのに既視感があったのは、聖の言う通りだからなのかもしれない。


「きっと、これからも思い出すことはあるはずだ。今はわからなくても、必ず記憶は蘇る。だから、俺の傍にいてくれないか?」


だからといって、すべてを信じられるなんて思えないし、簡単には頷けなかったけれど……。


「今度はもう、失いたくないんだ」


その声があまりにも悲しみに満ちていて、凜花は彼の願いを拒絶できなかった。