「運命なんて言葉に……なんの保証もないですよね?」

「保証?」

「そうです……。聖さんは『魂でわかる』って言いましたけど、私にはわかりません。だから、運命って言われてもなにをどう信じればいいのか……」


聖が眉を下げたため、思わず凜花は語尾を弱めてしまった。
正論を口にしていたはずなのに、なぜか悪いことをしている気分になる。彼がやけに悲しそうに微笑んだせいかもしれない。
その表情には、見覚えがあった。


「今朝の夢……」

「夢?」

「あっ……」


思わず漏れた独り言を拾われてしまい、凜花は気まずさをあらわにした。


「聞かせてくれないか? どんな夢を見た?」

「どこかの丘にいて、なぜか一面が赤くて……白い花……凜かな? 花が赤く染まっていくようでした」


聖が眉を下げたため、言葉が続かない。


「……それで?」


そんな凜花を促すように、彼が小さな笑みを浮かべた。


「それで、その……」


言い淀んでしまうのは、言葉にするのは憚られたから。
このあとに凜花が見た光景では、聖が泣いていたのだ。


「構わないから続けて」


けれど、優しく急かされて、凜花は言いにくそうに唇を動かした。


「聖さんが泣いていて……『凜』って呼びながら手を伸ばしたんですけど、たぶん間に合わなくて……」


曖昧にしか話せなかったのは、この先の記憶が朧気だったせいである。
夢らしいと言えば夢らしく、起きたときには鮮明だったはずの景色はもう薄れそうだった。


「あ、でも……『愛してる』って……」

「え?」

「『生まれ変わってもまた見つけて』って言ったような……」


あれは確か、凜花が見ていた光景だった。
つまり、そう言ったのは自分自身だったのかもしれない。
そのことに気づいた凜花は、急に羞恥が込み上げてきて慌てふためいた。


「あの、これは夢の話で……! だから、私が言ったわけじゃなくて……」


言い訳をすればするほど、墓穴を掘っている気がする。


余計に恥ずかしくなって、視線を逸らそうとしたとき。

「っ……!?」

凜花の体を引き寄せた聖に、思い切り抱きしめられた。


「ひ、聖さん……?」


ぎゅうっと力を込められ、息が苦しくなりそうだった。
それなのに、彼の体が不安げに震えている気がして、身動ぎひとつできない。