「だから、えっと……つがいとかもまだよくわからないんですけど、どっちにしても仕事は辞められないっていうか……」

「凜花」


たじろぎながらも話す凜花に、聖が優しい眼差しを寄越す。
こんな状況でも恐怖心が芽生えないのは、この柔和な面差しにどこか懐かしさを感じてしまうからだろうか。


「家族には俺がなる」


そんな風に考えていると、信じられないような言葉が紡がれた。


「俺と番えば、凜花は俺の妻だ」

「っ……!」


自分の意思なんて関係なく、凜花の鼓動が高鳴る。


「ゆくゆくはふたりの子を為して、ここで俺たちの家族を作ろう」


つがいや花嫁なんて言われても、どこか現実味がなかった。
疑っていたわけではないが、半信半疑だったのは間違いない。
だから、凜花の中ではどこか他人事だった。


「そうすれば、凜花にも家族ができる」


ところが、聖はずっと本気でそうするつもりでいたようだ。
一昨日に会ったばかりの凜花に対し、彼は魂で自身のつがいだとわかると言った。
しかし、凜花にはそんなことはわからない。


百歩譲って聖に恋心でも抱いているのならまだしも、出会って三日と経たない男性に恋をするほど、凜花は恋愛事に慣れているわけでもない。
恋人どころか好きな人すらいたことがない。それどころか、恋がどういうものなのかもよくわからないのだ。
それなのに、恋や結婚を通り越して子どもの話までされてしまうと、さすがにもう彼についてはいけなかった。


「えっと……私、二十歳になったばかりで……」

「知っているよ」

「その……結婚とかはまだまだ考えられないっていうか……」

「俺は凜花が二十歳になるのを待っていたんだ。まだ信じられないというのは仕方がないが、それでも結婚が早いということもないだろう」

「は、二十歳で結婚するのは早いと思います……!」

「だが、凜花が俺のつがいであることは事実なんだ。どうあっても、俺たちは番う運命にある」


なにを言っても暖簾に腕押し……という感じしかしない。
しかも、戸惑いを隠せない凜花に反し、聖は至って冷静だった。
今日の天気のことにでも触れているように普通に話すものだから、凜花は自分の思考がおかしいのかと錯覚しそうになったくらいである。


(いやいや……私はおかしくないよね?)


龍だろうが天界だろうが、本当に凜花と家族になるのかどうかなんてわからない。
彼が凜花に対して恋愛感情を抱いているのかどうかも知らないが、どちらにしてもさすがに横暴ではないだろうか。