凜花は、メイクをあまりしない。
日焼け止めを塗ってパウダーを重ね、色付きのリップを塗るくらい。
同年代の子たちと比べると地味なのは自覚しているが、基本的にこれで終わり。
あとは、背中下まで伸びた色素の薄い黒髪をブローしてヘアオイルを塗るだけ。


身支度に必要な時間は、およそ十五分。朝食の後片付けを入れても、起床から出発まではだいたい一時間あれば足りる。
バッグを持ち、最後に戸締りを確認してから普段通りに家を出た。


凜花の職場である『ハヤブサ便』までは自転車で十分。
ハヤブサ便は静岡(しずおか)県に展開している、運送会社だ。県内を中心に営業所が点在し、凜花が住む街にもある。


凜花は、事務員として十八歳から働き、今年で入社二年目になる社員だった。
仕事は大変なことも多いが、静かに黙々と作業をするのはわりと好きだから、事務職自体は向いている方かもしれない。


待遇は特にいいわけではないものの、ギリギリひとり暮らししていけるだけの給料はもらえているし、少ないながらも先月には夏のボーナスも出た。
裕福な暮らしはできなくても、贅沢をしなければなんとか生きていける。
だから、不安は色々とあるけれど、生い立ちを考えれば今の環境があるのは幸せな方なんだ……と、凜花は思うようにしている。


もっとも、それは自分自身に言い聞かせるために過ぎない。
けれど、そういう風に考えなければ、三か月ほど前から頭を抱えている〝問題〟にそろそろ心が折れてしまいそうだった――。