真っ赤に染まる花畑。
一面が美しい花に覆われている丘が、燃えるような赤で満ちていく。


――愛してる。生まれ変わってもまた見つけて。


悲しみと愛おしさがこもったような切ない声に、聖が絶望感を浮かべた顔で涙を流した。


(りん)……!」


伸ばされた手は届かない。
まるで、赤に包まれていく白い花が、拒むように彼の姿を隠していく。


歪む視界の中、伸ばした手が届くことはなかった――。





「ッ……」


凜花が目を開ける。


「わぁっ……!」


飛び起きるように上半身を起こすと、今朝も凜花を覗き込むようにしていたらしい蘭丸と菊丸が左右にころんと転がった。


「あっ……」


ふたりに気を取られた凜花の唇から小さな声が漏れる。


「蘭丸くん、菊丸くん、ごめんね! 大丈夫?」

「平気です!」

「僕たち龍だから強いです!」


すぐに起き上がった蘭丸と菊丸が、それぞれ凜花の両腕にしがみついてくる。


「姫様、おはようございます」

「ご飯できてるです」


ふたりの笑顔にホッとしたような気持ちになっていると、ふすまの向こうから「失礼いたします」と聞こえてきて桜火が姿を見せた。


「姫様、おはようございます。お召し替えのお手伝いにまいりました」

「あ、はい……」


昨日の今日で素直に頷いてしまったのは、凜花が今着ているパジャマ代わりの浴衣も彼女が着付けてくれたからである。
これに着替えた昨夜も、当然のように拒否権などなかった。


「あら? 姫様、随分と汗をかかれていますね。なにかございましたか?」

「え? あっ……ちょっと変な夢を見ちゃって……」

「でしたら、お召し替えの前に湯浴みのご用意をいたします」

「え? い、いえ……そんな……」

「ですが、そのままお召し物を替えるのは気持ち悪いでしょう? 湯の準備はすぐにできますから。蘭丸、みなに湯浴みの準備をするように伝えて。菊丸は聖様に姫様はお風呂に入ってから伺います、と」

「はーい」


凜花の返事を聞く前に、桜火が蘭丸と菊丸に指示を出す。彼女は持っていた着物を手にしたまま、「姫様はこちらへ」と廊下の方へと誘った。
凜花は戸惑いながらも頷き、「すみません」と頭を下げる。


「姫様、昨日も申し上げました通り、我々にお礼や謝罪は不要です。ましてや、頭など下げてはなりません。あなたは聖様のつがい。聖様の臣下である我々にとって、あなたのお世話をさせていただくのは当然のことなのです」


すると、桜火がたしなめるように告げた。