「つがいって……」

「わかりやすく言えば、花嫁ということだ」

「それって、結婚するってことじゃ……」

「いずれはそうなってもらう。だが、今はまだそこまで考えなくていい。昨日の今日だ、凜花は混乱しているだろう?」


小さく頷きながらも、〝今は〟とつけられていたことに引っかかる。
つまり、〝いずれはそうなってもらう〟という言葉通りになるのかもしれない。


そもそも、龍だとか天界だとか、まるで現実味がない。
けれど、聖の説明に納得できずにいる一方で、凜花の中には彼の言い分を信じようとしている自分がいた。
上手く言えないが、本能が聖を否定することを拒んでいる気がしている。


「つがいって……どうやってわかるんですか?」

「龍にとって、つがいは唯一無二の存在だ。誰に聞かずとも、龍としての魂が教えてくれる」

「魂って……」

「こう聞いても信じられないかもしれないが、凜花もいずれわかるときが来る」

「でも……私は人間だし、魂とか言われてもわからないっていうか……」

「今はな」

「え?」

「少しずつ俺を知っていけばいい。そうすれば、きっとすぐにわかる」


たじろぐ凜花に反し、彼の表情は自信に満ちている。
まるで、いずれ必ずわかる――とでも言いたげだった。


「凜花は身寄りがないのだろう?」

「はい……。でも、どうしてそんなこと……」

「凜花の魂は随分と傷ついていた。俺は龍の中でもそういうことを察するのが得意なんだ。事情はわからないが、つらいことがあったんだろう?」

「ッ……」


すべてを見透かすような瞳に捕らわれて、凜花の目がじんと熱くなる。
なんとか涙をこらえたが、今にも泣いてしまいそうだった。


「話せるときが来たら、いずれ凜花のことを話してほしい。それまでは難しいことは考えなくて構わないから、ここでゆっくり魂を休めるといい」

「でも……私、お金もないですし……」

「お金?」


きょとんとした聖が、次いで小さく噴き出す。


「心配するな。俺のつがいを俺が守るのは当然のこと。凜花はただ俺の傍にいてくれればいいんだ」


甘えてしまってもいいのかと、戸惑いや不安はあった。
けれど、凜花の中にあるなにかが、彼の傍から離れたくないと訴えている。
そんな風に感じて、凜花は思わず小さく頷いてしまっていた。