聖とともに庭に出ると、白い花が一面に咲いていた。
凜花の着物に描かれたものとよく似ているそれは、丸みを帯びた花びらが数枚重なっている。白い花びらの縁はピンク色だった。
一見すると花の形はバラに似ているが、チューリップのように一本ずつ咲いており、茎には棘もないことから別物だと思った。


「この花……なんて名前ですか?」

「凜だ」

「凜……」

「天界にしかなく、中でも龍の力が強い場所を好んで花を咲かせる」

「天界?」

「ああ、それもまだ話していなかったな。まずはそこから説明しよう」


彼は、凜花の背中に手を添えてゆっくりと歩き出し、玄関の方に回った。赤い屋根の大きな門には見覚えがある。
傍には、大きなご神木のような木と澄んだ池があった。


「この池を覚えているか?」

「昨日の池に似てるような……」

「そうだ。これは下界と天界を結ぶ、言わば扉のようなものだ」

「扉?」

「ああ。この池を介して、凜花がいた下界と繋がっている」

「私がいたって……ここはそうじゃないんですか?」

「ここは龍の住処――天界だ」


聖はなんでもないことのように話しているが、凜花の思考は追いつかない。


「それって、どういう……」

「龍とその血を継ぐ者たち、そして龍のつがいとなる者しか住めない場所ということだ。下界とは違い、天界は誰でも足を踏み入れられるところではない」


凜花の中では、まだ彼が龍であるということも半信半疑だった。
昨日の光景を思い出せば疑いようはないのだが、一晩経ったせいか今はいまいち信じ切れないである。


「でも、私……人間で……」

「凜花は特別なんだ」

「特別?」


小首を傾げる凜花に、聖の目が柔らかな弧を描く。


「昨日会ったときにも夢でも何度も言っただろう? 俺のつがいだ――と」


美しい笑みに、心ごと飲み込まれてしまいそうだった。
胸の奥が高鳴って、きゅうっと苦しくなった。
凜花は、自身の心の中に芽生えた知らない感覚に戸惑う。