「とてもお似合いです。きっと、聖様もお喜びになられます」

「あ、えっと……色々とありがとうございます」

「お礼など不要です。これは私のお役目、これから毎日お世話をさせていただくのですから」


桜火の言葉に引っかかったが、まずは聖に会うべきだろう。
そう考えた凜花は、彼女に促されるがまま屋敷の中を歩いていく。
すれ違う者たちの視線を感じたものの、みんな一様に凜花に頭を下げていた。
それは、凜花にとっては異様な光景で、ただならぬ空気にも思える。ここで初めて不安を抱いた。


「こちらでございます」


凜花が口を開こうとしたとき、桜火が振り返ってふすまを手のひらで差し、「失礼いたします」と断りを入れてからそれを開けた。
室内は、凜花が眠っていた部屋よりもずっと広く、中心に置かれた長机の最奥に聖の姿があった。両隣では、蘭丸と菊丸が彼にしがみつくようにしていた。


「おはよう、凜花。よく眠れたか?」

「あ、はい。おはようございます」

「それならよかった。朝食を用意させたんだ。気に入るものがあるといいが、好き嫌いはあるか?」

「いえ……」


聖が瞳をたわませ、凜花を招くように手を伸ばす。


「おいで」


柔らかな声音が凜花の鼓膜を揺らした瞬間、凜花の鼓動が大きく高鳴った。
同時に、ずっとわからなかった疑問の答えにたどりついた。


「夢で……あなたと会った?」


いつも見る夢。
優しい声で凜花を呼び、まるで乞うように語りかけてくる男性がいた。
何度も見たはずなのに、いつも目を覚ますと彼のことを上手く思い出せなかった。
けれど……今この瞬間、なぜかそれが聖だったのだと確信した。


「ああ、ようやく気づいてくれたか」


彼が嬉しそうに微笑み、立ち上がって歩いてくる。


「俺はずっと、ここから凜花に呼びかけていた。早く俺のもとに来てくれるように願って、毎日夢の中で語りかけていたんだ」

「どうして……?」

「話せば長くなるから、まずは朝食だ。そのあとですべてを語ろう」


聖は静かに告げると、凜花を自身の向かい側の席へと促す。
凜花は戸惑いながらも、彼に言われた通りに豪華な朝食に手をつけた。