「えっと……じゃあ、あんまり見ないでくださいね……?」

「お許しいただけてよかったです。ありがとうございます」


嬉しそうに笑う桜火につられて、凜花の顔にも笑みが浮かぶ。


「ほらほら、蘭と菊は出ていきなさい。女性のお風呂は覗くものではありませんよ」

「はーい」


蘭丸と菊丸は揃って右手を上げると、「姫様、外で待ってるです」と言い残して出ていった。


その後、自分で脱げると言う凜花に、桜火は服を脱ぐのを手伝った。
浴室では、彼女が凜花の背中を流して髪を洗い、花から採取したという香油まで塗り込んでくれるほど甲斐甲斐しく世話を焼かれ、凜花はいたたまれなかった。


他人とお風呂に入ったことくらいはあるが、こんな風に世話をされたことはない。
どうすればいいのかわからずに戸惑うばかりで、会話もろくにできなかった。
けれど、檜造りの広い湯船に入ったときには、体の力が抜けて心も緩んだ。


「あの……ずっとそこにいるんですか?」

「はい。私はこれから常に姫様のお世話をさせていただくことになりますので、姫様が湯浴みをされるときにもお傍に控えさせていただきます」

(なんだかずごいVIP待遇じゃない? あとで高額請求されたらどうしよう……。たぶん払えないんだけど、大丈夫なのかな……)


蘭丸と菊丸、そして桜火。
三人から『姫様』と呼ばれ、本当にお姫様のような扱いを受けていることに、どうしても戸惑ってしまう。


「あ、そういえば……さっき、蘭丸くんと菊丸くんがつがいがどうとか話してたんですけど、あれってどういう意味ですか? お嫁さんって……私は違いますよね?」

「後ほど聖様からお聞きください。聖様は姫様のことをお待ちですから」

「えっ? そうなんですか? だったら、もう上がります」

「いえ、『湯浴みはゆっくりさせてやれ』とのお言いつけですので、もっと――」

「もう温まりましたから! それより、私を待っててくれてるなら急がないと……」


慌てて湯船から出た凜花を、彼女はやっぱり甲斐甲斐しく世話をする。
体を拭き、着物を着つけ、髪を丁寧に乾かして結い上げた。
背中の下あたりまで伸びていた凜花の髪は、両サイドを綺麗に編み込まれ、うなじが見えるように上げられたあと、かんざしまでつけられた。


着物は薄桃色の生地で、大きな花がいくつか描かれている。白い花びらは縁がピンク色で、まるで花びらを縁取るようだった。
かんざしにも、同じ花のデザインが施されていた。