「おいで、凜花」


いつもの声が聞こえる。
私を呼ぶ、優しい声。


「俺と永遠の契りを交わそう」


愛おしそうに、どこか乞うように。私に語りかけている。


「今度こそお前を守り抜くよ」


知らないのに、なんだか懐かしい声音。


「だから早く俺のもとにおいで、凜花」


――あなたは誰……?


「この世でふたりといない、唯一無二のお前のつがいだ――」





ハッと目を覚ます。
視界に入ってきた見慣れない天井に、ここがどこだかわからずにいたのも束の間。


「あっ、起きたです!」


ひょっこりと可愛い顔に覗き込まれ、凜花は目を丸くした。


「姫様、起きたですね!」


四歳くらいの男の子がふたり、凜花に向かって明るい笑顔を咲かせている。


「だ、誰……?」


凜花はたじろぎつつも、ひとまず身を起こす。左右で布団を囲むようにしていたふたりを交互に見ると、にかっと白い歯を覗かせた。


蘭丸(らんまる)!」

菊丸(きくまる)!」


右側の赤い髪の男の子が蘭丸、左側の黄色い髪の男の子が菊丸と名乗る。
ふたりは兄弟なのか、髪色こそ違うものの顔は瓜二つだった。


「聖様がおいでって言ってたです」

「蘭と菊、聖様のお言いつけで姫様を待ってたです」


ふたりが口にした名前は、昨日出会ったばかりの男性のもの。
寝起きの思考でもすぐに記憶が蘇り、自分がなぜここにいるのかも思い出した。


昨夜、龍の姿になった聖を前に驚きと戸惑いを隠せなかったが、家に帰りたいとも思えなかった。
というよりも、あのあとに気が抜けたように睡魔に襲われ、あれよあれよという間に泊まっていくことになった。


幸いにして、今日は仕事が休みだ。
まだ夢か現実かわからないような気持ちもあったが、どのみち泊まる場所の確保もしていない。
そんな事情から、彼に甘えさせてもらうことにしたのだ。