倉本(くらもと)凜花の意識がハッと覚醒する。
視界に映る場所がどこかわからず、一瞬遅れて働き始めた思考が自分の家だということを教えてくれた。
けれど、意識はまだ半分夢の中にいるようだった。


「また、誰かに呼ばれた気がした……」


内容は思い出せない。
それなのに、なんとなく同じ夢を見たことがある気がする。一度や二度ではなく、もう何度も……。


見慣れた天井に向いていた視線を、おもむろに左側に移す。ベッドサイドのチェストの上に置いている写真を見て、ようやくホッと息をついた。


「おはよう、お父さん、お母さん」


上半身を起こして、肩を寄せ合う両親に笑顔を向ける。
写真の中のふたりは、今日も優しく微笑んでいた。


重い体に鞭打つようにベッドから下り、カーテンを開けてグッと伸びをする。
窓越しの眩しい日差しを浴びると、窓を開けた。
途端、近所にある公園の方向からセミの鳴き声が聞こえてくる。耳をつんざくようなけたたましさにため息をつき、少しの間そのまま空気を入れ替えた。


顔を洗って歯磨きを済ませ、お弁当箱に昨夜の夕食のおかずの残りを詰めていく。白米に梅干をひとつ乗せ、作りたての卵焼きも二切れ入れた。
残った卵焼きを摘まみながら食パンをトースターに放り込み、お気に入りのグラスに作り置きのアイスティーを注ぐ。
服を着替えると、ちょうどトーストが焼き上がった。バターを塗ってお皿に載せ、グラスとともにローテーブルに運ぶ。


毎日代わり映えしない朝食はあまり進まず、アイスティーばかりが減っていった。
気も体も重いけれど、朝の時間は慌ただしく過ぎていく。出勤時刻が迫っているから、嫌でも動き出すしかなかった。