「嘘……」

「あとはすぐに治せそうだな」


目を真ん丸にする凜花に、聖は瞳をたわませて腕や顔にも手を翳していく。
じんわりとした温もりを感じたかと思うと、彼の手がたどっていくのに合わせて傷が消えた。


「あなた……何者ですか?」


凜花の驚愕に満ちた声が落ちると、聖がふっと唇の端を吊り上げる。


「これは龍の力だ」

「りゅう……?」


お金持ちの男性にからかわれているのか。
そんなことを考えたが、現に凜花の怪我は治癒した。
目に見える範囲だけでも何事もなかったかのように綺麗になっていて、からかっているだけだとは思えない。
一方で、龍の力というのも信じられなかった。


「……そうか。すべて忘れているんだったな。仕方がない、そこから見ていろ」


聖は眉を下げると、独り言のように言い置いて縁側から庭へ出た。
次の瞬間、突風が巻き起こり、彼の姿がまばゆいほどの光に包まれる。そして、光が弱まると、凜花は目の前の光景に絶句した。


銀の鱗と同色のたてがみ、目は鋭く光り、口からは牙のごとく鋭い歯が覗く。
四本の手足は体に対して短くも見えるが、凜花のものよりはずっと長い。それぞれの指についている五本の爪は、一振りで木をなぎ倒せそうなほど逞しく鋭利だった。
トカゲにも似ているが、それらやヘビよりもずっと大きく、そしてまったく違うものだというのもわかる。
なんせ、体調が三〇メートルはありそうだったからである。


「ッ……龍……?」


呆然とする凜花だったが、不思議と恐怖心は湧いてこない。
生まれて初めて見る生き物なのに、やっぱり懐かしいような感覚が芽生えてくる。


「ああ、俺は龍。……この地を守る龍神だ」


聖は静かに告げたのかもしれないが、その声は唸るようだった。グルルッ……とうめくようにも聞こえた。
凜花はまるで夢の中にいるような感覚だった。
むしろ、これが現実だとどうして信じられるのか。
そんな思いを抱えて目を離せずにいたが、程なくして彼は龍から人の姿に戻った。


優しい笑みを向けられて、凜花の心が戦慄く。
凜花の意思なんて関係なく、聖から目が離せなかった。


「ずっとここにいればいい。俺が守るから」


彼の声がどこか遠くで聞こえた気がした。