「聖様! お帰りなさいませ」

「ああ。俺のつがいを連れ帰った。名は凜花だ。今日からここに住む。お前たち、しっかり世話をしてやってくれ」

「御意!」

「まぁ、本当にそっくりだわ」

「ああ、生き写しのようだ」


その背後にいる者たちがざわめいていることに気づいたが、振り向いた男性が「お前たち」と唸るように言えば、みんなの顔色がサッと変わって静かになった。


「凜花、こいつは玄信(げんしん)だ。俺が傍にいられないときは玄信を頼れ」

「凜花様、どうぞなんなりとお申し付けください」


玄信は、四十代後半くらいだろうか。白髪交じりの髪に目が留まり、次いで視線が絡んだときにはギョッとした。
彼の目元に、刺されたような大きな傷があったのだ。どうやら古い傷のようだが、眦から頬に繋がる傷は初見では驚くのも無理はないほどに目立つ。


「心配するな。見かけは怖いが、玄信は信頼の置けるいい奴だ。身の回りの世話人には女の臣下をつけるが、それはまたあとでいいか」


聖はひとりで決めてしまうと、そのまま大きな建物の方へと足を運んだ。
朱色の屋根の下に広がっているのは、日本家屋のような造りの屋敷。ほんのりと霧に包まれているが、その広さは一目見ただけでも桁違いだった。


「ここって……」

「俺の家だ。凜花は自分の家だと思って寛いでくれ。必要なものがあれば、なんでも用意しよう。だが、まずは傷の手当だな。足も痛むだろう」


擦り傷はともかく、足のことは聖に話していない。にもかかわらず、彼はすべてを知っているようだった。
聖は、凜花を抱きかかえたまま、どこまで続くのかわからないほど長い廊下を進んでいく。
家の中にいる者たちも物珍しそうに凜花を見ていたが、みんな一様に聖に頭を下げている。それだけで、ここでは彼が一番偉い人物なのだと悟った。


まるで映画の撮影で使われそうな大きな屋敷の中の一室は、これまた広かった。
凜花の部屋どころか、その何倍も大きい。その一角で凜花を下ろすと、聖は自身の髪を一本抜いて凜花の右の足首の上に置いた。
そこに手を翳し、息を吹きかける。
すると、彼の指の隙間から柔らかな光が漏れ、ズキズキとしていた足の痛みがみるみるうちに引いていった。