「心配しなくても絶対に悪いようにはしない。凜花が安心して過ごせる場所を用意してある。だから、俺と一緒に行こう」


差し伸べられた手に、まるで吸い寄せられるようだった。
凜花は無意識に自身の右手を伸ばし、聖の手にそっと触れる。刹那、彼が柔らかい笑みを浮かべた。
すかさず聖が凜花を抱き上げる。


「ひゃっ……!」

「不安定なら俺の首に手を回しておけばいい。まぁ、すぐに着くけどな」


意味深に瞳を緩めた彼は、凜花を横抱きにしたまま大きな木の前に立った。


「これは、向こう側とこちら側を繋ぐご神木だ。この山の守り神でもある」


聖は独り言のようになにかを唱えると、凜花を見つめて微笑んだ。


「少し驚くかもしれないが、心配しなくていい。すぐに着くから」

「え?」


凜花が小首を傾げるよりも早く、彼が足から池に飛び込む。抱かれたままの凜花も、必然的に池に飛び込まされてしまった。
驚く暇もなく反射的に瞼を閉じる。


「凜花、目を開けてごらん」


思わず息を止めたが、三秒も経たずして聖の声が聞こえた。
恐る恐る目を開け、そして言葉を失う。
目の前には草木や色とりどりの花が広がり、柔らかな光に包まれていたからである。
さらには、たくさんの人たちがかしずくように控えていた。


つい数秒前までいた山の中からは考えられないような光景に、凜花は困惑するほかなかった。
ここがどこなのか、たったの数秒でどうやってここにたどりついたのか。わからないことがまた増えたせいで、凜花はとうとう声も出せなかった。