「これからどうするの……」


正直、両親との思い出の場所に着いたあとのことは考えていなかった。
目的さえ果たせば、もう人生の幕を下ろそう……と決めていただけ。場所も方法も考えず、ただ女性が話していた神社へ行くことだけが望みだった。
ところが、目的地に着くどころか場所もわからず、動けなくなる始末。
小さなリュックは背負っていたが、手に持っていたスマホはどこかで落としたようだった。これでは助けも呼べない。


「そっか……。助けなんて呼ばなくてもいいんだ」


誰に言うでもなかった言葉が風にさらわれていく。
死ぬ気でいるのなら、このままここにいれば餓死でもするだろう。
何日耐えればいいのかわからないが、脱水症状だって起こる。
もしかしたら、その前に毒蛇やイノシシに襲われるかもしれない。
思考が纏まらないことに、力のない笑みが漏れる。


どうすることもできない中、おもむろに周囲を見回す。ある一点で目を留めた凜花は、二重瞼の目を大きく見開いた。


「ここ……もしかして……」


リュックから手帳を出し、グチャグチャの写真を確認する。
それを持ち上げて目の前の光景と照らし合わせるように何度も見ると、凜花の視界がそっと歪んでいった。


「龍神社……だよね?」


注連縄(しめなわ)紙垂(しで)を纏う、大きな木。ボロボロの看板らしき板のようなもの。綺麗だとは言いがたいそのふたつの傍に、池があった。
凜花のいる場所からでは水底までは見えないが、どうやら水は澄んでいるようだ。
池以外は写真とは随分と違ったが、同じ場所だというのはなんとかわかった。
神社らしきものは見当たらないものの、女性の話の通りならこの近くにお社もあったはず。


怪我の功名と言うには被害が大きいかもしれない。
けれど、どうにか目的地に着いたことだけでも心が救われた気がした。
疲れ果てていた凜花の唇から、ホッと息が漏れる。


「お父さん、お母さん……私……」


そこで意識が途絶えた――。