「……ッ」


整備されていないな山道は、山に慣れていない人間には想像以上に厳しかった。
朝露のせいか足場が悪く、傾斜ばかりの地面はよく滑る。木の枝や葉がさらに歩きづらさを増長し、まるで山そのものに拒まれているようだった。


何度も滑って膝をつき、履いているデニムはドロドロ。Tシャツから出ている腕には木の枝で作った傷が増えていき、顔にも小さな傷ができていた。
それでも、凜花は諦めようとは思わなかった。


自分にはもうなにもない……という絶望感を纏った気持ちが、凜花の背中を押していたのかもしれない。
息を切らして進む道は、どんどん苛烈になっていく。
どこに行くのが正しいのか、そもそもここを進めば目的地にたどりつけるのか。
なにもわからないまま進むのはつらかったが、これまでに味わってきた苦痛に比べればどうということはない。


「どこ……? どこに行けばいいの……?」


汗に塗れた額を腕で拭い、肩で息をする。
傍にあった大きな木に体を預けて、呼吸を整えようとしたとき。

「ッ……!?」

足が取られてバランスを崩し、凜花は来た道とは垂直の方向に滑り落ちていった。


「きゃあぁっ……!」


整備されていない山の中、凜花の体は瞬く間に転がっていく。ときには木や茂みにぶつかり、体に傷を作っても勢いは止まらない。
腕で顔を庇うようにするだけで精一杯で、防御もできない。いくつもの痛みを感じたあと、気づけば大きな木に囲まれた場所にいた。


「……生きてる? っ……」


なんとか上半身を起こすが、立とうとした足に激痛が走って顔が歪む。どうやら足首を挫いたようだった。
視界に入る限り腕も傷だらけだが、どうやら骨は折れていない。
安心したのも束の間、人っ子ひとりいない場所で身動きが取れなくなったことを理解し、一瞬遅れて嘲笑交じりのため息が漏れた。