凜花は、今やすっかり人気者である。
桜火の他に世話係がつくことになったときには、立候補者が後を絶たなかったのだとか。そこから選ばれた三人の女性は、みんな優しく美しかった。


蘭丸と菊丸は、相変わらず凜花の守護龍として務めを果たしている。
玄信との稽古の甲斐があって、少し強くなったようだ。


城での日々は、不安や悲しみといった負の感情を抱く暇もないほどに慌ただしく、けれど毎日が温もりに溢れている。
心が癒されていっているからか、凜花の中にあるつらかった記憶も日に日に薄らいでいき、今はあまり思い出すこともない。


そんな日々を経て迎えた今日、聖と凜花は大切な人たちに囲まれて祝言を挙げる。
すでにつがいの契りは済ませたが、みんなの前で改めて婚礼の議を執り行うのだ。


玄信によって進められる祝言は、滞りなく進んでいく。
聖と凜花には多くの祝福の言葉が贈られ、大広間には始終笑顔が絶えなかった。


「それでは、指輪の交換と契りを」


玄信が差し出したのは、黒塗りの漆器でできた箱。
そこには、聖の龍の鱗から作られた指輪が収まっていた。


指輪は彼の鱗同様に美しい銀色で、凜花のものには龍真珠があしらわれている。
真珠が人魚の涙と言われるように、天界では龍真珠は龍の涙だと言われている。


実際は、天界に咲く龍の花の花芯から採れるのだが、採取できるまでに何年もかかる上に龍の花は滅多に開かないため、とても貴重なものだった。
しかも、凜花の指輪に施されているのは大きく艶やかで、この二千年で一番美しいものだという。


ふたりは互いの薬指に指輪をはめると、自然と微笑み合った。


「凜花」

「はい」

「身も心も魂も我と共にあれ。唯一無二の、我が愛しきつがいよ」

「はい。私のすべては愛するあなたとともに――」


真っ直ぐな双眸が、凜花を見つめる。
深い愛と優しさに満ちた瞳に、凜花の胸の奥が甘やかな音を立てた。


聖が小さく頷くと、凜花は穏やかな笑みを零し、瞼を閉じる。
直後、凜花の唇と彼の唇がそっと重なった。


聖と凜花がつがいの契りを交わしたあの丘は、焼け跡にもまた草木が芽生えるようになった。
夏には一面に凜の花が咲くだろう。


風に揺れる春の花にまぎれて、ふたりを祝福するように凜の花が芽吹いた。
聖と凜花がそれを知るのは、あの丘に足を運ぶ明朝のこと。


夏の匂いが微かに混じった春の優しい香りに包まれる中、くちづけを交わしたふたりの心は幸福感で満ちていた――。





【END】
Special Thanks!!


*Date*
2022,07,31 執筆開始
2022,08,19 執筆完了
2022,08,20 ノベマ!公開開始
2022,08,23 ノベマ!全編公開


河野美姫