凜花にとっては、桜火や風子は姉のような存在で、良き相談相手。
蘭丸と菊丸は弟みたいで、玄信は厳しい父親という感じである。


料理係たちも臣下たちも、気安く話してくれるようにはなった。
とはいえ、やっぱり凜花が聖のつがいである以上、彼らにとっては一線を越えることはできないのか、一定の距離は感じたままだった。


だからこそ、凜花は欲しかったのだ。
少しくらいきついことを言われるようであっても、対等に見てくれる相手が。
これから天界で聖のつがいとして生きていく凜花には、きっと必要な存在だろう。


「ちょっと」

「はい」

「聖の妻になろうって奴が友達もいないなんてありえないわ。私が第一号になってあげるから、聖に恥をかかせないで」

「えっ?」


相変わらず、口調は優しくない。


「あんた、色気もなんにもないから私が鍛えてあげる」


それなのに、紅蘭の表情は今までで一番柔らかくて、凜花は自然と笑みを零した。


「はい。よろしくお願いします」

「言っておくけど、私は他の奴らみたいに優しくないわよ?」

「いいえ。きっと、紅蘭さんは優しくしてくださると思います」


断言した凜花に、彼女が眉をひそめる。


「……聖からなにか聞いた?」

「紅蘭さんのおばあ様が人間だってことなら聞きました」

「げっ……! 聖、勝手に言うんじゃないわよ!」

「紅蘭のおばあ様の許可は得てある」


不本意そうな紅蘭に反し、聖は飄々としている。彼女はため息をついた。


紅蘭の祖母が人間だと聞いたのは、あの事件のあとのことだった。
彼は、屋敷から城にやってきた凜花の傍にできる限り寄り添い、色々なことを教えてくれた。


実は、龍のつがいに人間が選ばれるのはごく稀にあるのだという。
現在も天界には数名の人間がいて、龍王院の中では紅蘭の祖母がそうだった。


人間の血を受け継げば、龍の血が薄くなり、必然的に龍の力も弱まる。
そのため、人間の血が入った家系は疎まれることもあるのだが、そんな紅蘭に優しく接していたのが凜だったのだとか。