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それからの日々は、とにかく慌ただしかった。
まずは屋敷の修繕。
臣下たちが総出で片付けに入り、建築を専門としている者たちに修繕を依頼し、その間はみんな城で過ごした。
城も修繕が必要だったが、屋敷ほどではなく、敷地も部屋も充分にある。
屋敷にいた臣下が少しの間とどまっても問題はなく、さらに凜花はそのまま城に移り住むことになった。
凜花自身、屋敷がとても気に入っていた。
せっかく仲良くなれた料理係たちとは会う機会が減り、臣下たちともなかなか話せない上、お気に入りだった庭にも行けなくなるかもしれない。
そんなことを考えていたが、聖は『好きなときに屋敷にも行っていい』と言ってくれたため、不安は一気に吹き飛んだ。
城での生活は、屋敷にいたときから一変した。
彼と凜花がつがいの契りを交わしたことが、瞬く間に広まったためである。
火焔の襲撃でほんのいっとき不安に包まれた天界だったが、龍神である聖が契りを交わしたとなれば一大事。
祝言は少し先になるため、近日中に天界を上げての祭りが行われるのだとか。
城には、なんとか大臣だとか、どこぞの偉い人だとか……よくわからない年老いた者だとかが立て続けに訪れ、『一言お祝いを』とふたりへの謁見を希望した。
そのため、凜花は聖と共に朝から晩まで対応に追われたのだ。
慣れない環境下で初対面の人たちと挨拶をするのは、凜花にとっては不安と緊張の連続だった。
弱気になることはなかったが、それでもそう簡単に慣れるものではない。
ときにはオドオドしてしまい、彼のように堂々と振る舞うことはできなかった。
ただ、聖は常に凜花を気遣ってくれた。
なにより、祝福はふたりにかけられるおかげで、ずっと彼と一緒にいられた。
少し前まではあまり会えていなかったこともあって、その喜びは不安や緊張を凌ぐほど大きかった。
凜花にとっての原動力である聖の存在が、凜花に笑顔を絶やさせなかった。
しかも、凜花は自分が人間ということで不満を抱く者が現れるのも覚悟していたのに、意外にもみんな好意的だった。
龍のつがいの契りは、一度交わしてしまえばそう簡単には消せない。
多少の不満がある者であっても、聖が選んだ相手が凜花ならふたりを祝福する方がいいと踏んだのだろう。
もっとも、反対意見や反乱分子がいたとしても、彼が許すはずはないのだけれど。