「だから、私を聖さんのつがいにしてください」


真っ直ぐな瞳でそう告げたとき、もうなにも怖くはなかった。


「凜花」


聖の瞳がたわむ。
嬉しそうに、幸せそうに、ほんの少しだけ泣きそうに。


「俺はもうずっと前から凜花を愛している」


けれど、彼の双眸には迷いはなく、ひたむきな想いを紡いでくれた。


「俺のつがいはたったひとり――凜花以外にはいない」


真剣な面持ちになった聖が、凜花の頬に触れたままの右手に軽く力を込める。


「凜花、この命が尽きても俺と共に……魂で求め合う、たったひとりのつがいよ」


美しい顔が、そっと近づいてくる。
瞳を伏せるようにした彼を見ていたいのに、このあと起こることを予感して鼓動が跳ねる。
なにも知らない凜花だが、ごく自然と瞼を落とした。


そして、優しい香りがふわりと鼻先をくすぐった刹那。
聖と凜花の唇が、そっと重なった。


その瞬間、ふたりはまばゆい光に包まれた。
泣きたくなるほど穏やかで優しくて、ずっと昔から知っていたような温もりが心に広がっていく。
ふたりの首筋には、小さな紋様のようなものが浮かび上がった。


「凜の花か」

「え?」


彼は右側に、凜花は左側に、それぞれ凜の花の絵が刻まれている。


「つがいとなった証に浮かぶものだ。紋様はつがい同士によって違う」


紋様が浮かんだ場所だけ、ほんのりと温かかった。
凜花が手を伸ばして聖の紋様に触れると、彼も凜花の頬を撫でていた手で浮かんだばかりの凜の花に触れ、どちらからともなく微笑み合った。


「俺たちらしいと言えばそうかもしれない」

「うん。凜さんが大好きだった花だもんね。今は私にとっても大好きな花だから、私たちにぴったりだと思う」

「それに、ここは凜の花に時期になると、一面に凜の花が咲くんだ」


すべてが示し合わさったようだった。
偶然でもあり、必然でもあり、そして運命だとも感じた。


「これからなにがあっても凜花を離さない」

「うん」

「生涯大切にすると誓う」


凜花が瞳を緩めると、聖が額に唇を落とし、そのまま頬にもくちづけた。
心が甘くてくすぐったいような感覚を覚えて、温かな幸せが溢れ出す。
ふたりは微笑み合い、惹かれ合うようにもう一度そっと唇を重ねた。