風が吹き抜けていく。
焼け跡が広がる痛々しい丘に残った花が揺れ、甘い香りがふわりと舞った。


「また、大事なものを失うかと思った……」


切なげに落とされた声に、凜花の胸の奥が締めつけられる。
大きな手が、凜花の存在を確かめるようにそっと頬に触れた。


「ここに来るまで何度も凜花を失うことを想像して、怖くてたまらなかった……」


弱々しく微笑む様も美しい。
そんな聖は、天界に住むすべての龍を統べる龍神。
龍たちは、彼に畏怖と尊敬の念を抱いている。


けれど、聖にもこうして弱い部分はある。
凜花は、誰にも見せられない彼の心の脆い部分を守ってあげたい……と思った。


「私はいなくなったりしないよ」

「凜花……」

「だって、あなたとずっと一緒に生きていくと決めたから」


聖が言葉を失くして瞠目する。
凜花は、彼を見つめて穏やかに微笑んだ。


「龍のつがいがどういうものか、ずっとわからなかったけど……魂で求め合うって意味が、ようやくわかった気がするの」


火焔の炎に焼き尽くされそうだったあのとき、凜花の中に芽生えたのは激情のような想いだった。


「私は聖さんの傍にいたい」


聖の心が欲しい。
彼とずっと一緒に生きていきたい。
そんな想いが、胸の奥から突き上げて。それなのに、もうこの気持ちを伝えられないかと思うと、後悔でいっぱいになった。


「なにも持ってない私だけど、あなたを守りたいと思うし、あなたの隣で一緒に歩んでいきたい」


自分が凜の身代わりだって構わない。
凜の魂も含めて自分なのだと、凜花はすべてを受け入れる覚悟を決めたのだ。


「だから、凜さんの魂ごと私を受け入れてほしい」


凜花の鼓動はドキドキと高鳴っているのに、想いを紡ぐことに抵抗はなかった。
ただ伝えたくて、伝えなければいけない気がして……。駆け出すように想いが溢れる心が止まらなくて、伝えずにはいられなかった。


「私、聖さんのことが好きです。誰よりもなによりも、あなたが大切です」


恋心を知らなかった日々が嘘のように、胸の奥が甘やかに締めつけられる。
高鳴る鼓動も、確かな恋情も、もう止まらない。
聖のことが好きだと、心が全力で叫んでいる。
迷いも戸惑いも不安すらも覆い尽くすように、凜花の胸の中は彼への愛おしさでいっぱいだった。