「ッ!? 凜花!? 放せ!」

「ダメッ!」


凜花は灼熱に顔を歪ませながらも聖の腕を離さず、彼は動揺しつつも炎を消した。


「なぜこんな無茶を……!」

「だって……」


困惑と驚愕でいっぱいの様子の聖に、凜花が首を横に振る。


「ふたりとも、もうやめよう? 憎しみ合うのは苦しいし、つらいよ……」


凜花は知っている。
人を憎む苦しさとつらさを。
そこから生まれるのは、悲しいものばかりだということを……。


「凜花……」


凜花の着物が焼けていることに気づいた聖の顔が、罪悪感で満ちていく。
けれど、凜花は小さな笑みを浮かべた。


「凜さんは、こんなこと望んでないよ」

「え……?」

「友達を傷つける聖さんを見たいはずがない。凜さんも私も、ふたりにこれ以上憎しみ合ってほしくない。だから、もうやめよう」


凜花を通した凜の言葉が、聖の心に届く。
彼は苦しげに顔を歪ませたあと、意を決したように小さく頷いた。


「ああ、そうだな……」


聖の双眸には、微かに涙が滲んでいる。
それでも、彼はもう火焔を攻撃する気はないようだった。


「う……」


少しして火焔が目を開けたが、もう起き上がる気力すら失っていた。


「聖……とどめを刺せ……」

「……いや、できない」

「は……?」

「止められたからな。凜花と、凜に……」

「……っ」


聖の言葉に、火焔が顔を歪める。


「だが、お前の龍の力を奪う。お前はこの先ずっと、火の龍の力を失くして生きていくんだ」

「……好きにしろ。どうせもう、俺はなにもできない……」


火焔の両手は焼けただれ、着物が燃えた上半身にも大きな火傷を負っている。
体を起こすこともできないようで、聖が火焔の心臓のあたりに手を当てても微動だにしなかった。


「……ぅ」


火焔が小さなうめき声を上げると、聖の手が光を纏った。
それは、火焔の体から出て聖に吸い取られていくようでもあった。


「これでもう、お前は火を操れない。力を失くした龍は飛ぶこともできない」

「俺をどうする?」

「……城で投獄していろ」


火焔は力なく笑い、聖は悲しげに見えた。
凜花は視線を逸らさずに、ふたりの姿をしっかりと目に焼きつける。


凜に伝えるように、聖と火焔のことを見守るように。
ただ真っ直ぐな双眸を向けていた。