「あんなに大切だったのに、いつしか聖の隣で幸せそうに笑う凜に憎しみを感じるようになった」


愛情が憎しみになり、心の中にあった愛が燃えていく。


「凜は、ずっとひとりだった俺に唯一優しくしてくれた。虐げられてばかりで強くなるしかなかった俺に、凜だけは優しくしてくれた。俺には凜しかいなかった。それなのに……」


凜花の心の中には、憎しみがあった。
蘭丸や菊丸、玄信たちを傷つけた火焔を許せない。
けれど同時に、胸が締めつけられた。


「つらかったね……」


体と心、どちらが苦しいせいかはわからないが、凜花の瞳からは涙が零れていた。


「お前になにがわかる?」

「私も……ずっと、ひとりだった……。ようやくできたたったひとりの親友も、簡単に失った……」

「それがなんだ? お前は今、幸せだろう。その程度の苦しみで――」

「でも……私の中の凜さんが泣いてる……」


凜花が涙交じりに答えると、炎が弱まった。


「っ……適当なことを言うな!」


火焔の動揺が火に現れたことは明らかであるが、凜花にはもう話す気力も残っていない。


(聖さん……)


大きくなった炎に、いよいよ絶望が過る。


(好きって……言えなかったな……)


ぼんやりとする意識の中で、再び瞼を閉じる。


「凜花!」


刹那、自分を呼ぶ声が凜花の耳を突いた。


空から聞こえたのが聖の声だとわかるのに、もう目を開ける力もない。
けれど、体が彼に抱きしめられたのを感じ、一筋の涙が零れた。


「よう、聖。随分と遅かったじゃないか」

「火焔!」

「俺が用意した龍たちはどうだった? お前の相手にはならんだろうが、あの数だ。城と屋敷を少しくらいは傷つけられただろう?」


聖は答えなかったが、火焔の口ぶりからは城と屋敷を襲わせたのだろう。


「龍神だなんて崇められていても反乱分子は必ずいる。俺やあいつらのような恨みを持つ者はまだまだいるぞ」

「それがどうした?」


聖の右手が龍に変化し、凜花と彼を囲む炎を薙ぎ払う。