実りの秋が終わりを告げ、また今年も厳しい冬がやって来た。

日頃たらふく蓄えたおかげで、僕は比類なき体力と体格を獲得した。この凍てつく長い長い冬を乗り越えたなら、彼女もきっと僕を見直してくれるに違いないのだ。もう出会った頃の、黒毛でころころの小さな男ではないのだと。

ところがどうしたことか。
いつものようにあの草原へ赴くと、そこには日頃の悠然さの欠片もなく、地べたに頭を預け、力無くぐったり横たわる彼女の姿があるばかりであった。
僕は重い腹を引き摺り、何があったのかと彼女に縋った。

「冬は嫌いよ。寒くてひもじいのですもの。それにね、死んだ亭主のことを思い出してしまうの。丁度こんな空模様の、寒い寒い日だったわ…。それを思い出すとね、食事も喉を通りませんの。」

彼女のあんなに艶やかだった白毛は、今や見る影もない。輝きは失せ、ぺったりと寝てしまっている。豊満だった身体からはすっかり肉が落ち、骨の浮き出るのが見て取れた。

このまま、このまま成す術も無く死んでしまうというのだろうか。僕が産まれて初めて胸を躍らせたひと…。
僕は腹の苦しいのも忘れ、死の淵に立つ彼女を何とか呼び戻せないかと思った。

「死んでなお貴女を苦しめる亭主のことなど、忘れてしまいなさい。貴女は寒くもひもじくもない。僕が居るじゃあありませんか。僕の胸に耳を当ててご覧なさい。貴女を想ってこんなにも早鐘を打っているのです。僕は初めて会うた日、貴女に身も心も捧げんと誓ったのです。」

彼女は似つかわしくない弱々しい顔をしていたが、僕の説得が功を奏したか、だんだんと明るい色を取り戻していった。

「…ああ、そんなにも私を想ってくださるのね。こんな女に身も心も捧げる…貴方そうおっしゃったの?」

「ええ、男に二言はございません。僕は貴女とひとつになりたいのです。」

彼女は救われたような笑顔で、僕の胸へとしなだれ掛かる。
ひとりではない熱を間近に感じる。ただそれだけで、僕の心臓は一層どきどきと早鐘を打つのだ。

この先の長い長い生涯、これほど美しく優しい女房が居てくれたならどれほど幸せか。
彼女は目に涙を浮かべて、僕の一世一代の求婚を受け入れてくれたのだ。

ああ、幸せだ。生きていて本当に良かった。
これからの僕の生涯は、小春日和のように華やぐに違いないのだ。