それからというもの、僕はあの草原へ足繁く通うようになった。
美しい彼女は秋の陽気の見せた、夢幻の類ではなかろうか。しかし幸いなことに、僕がいついかなる時に訪れても、彼女は草原に悠然と横になっていたのである。
「あら、今日も会いに来てくだすったのね。どう?沢山食べていらっしゃる?」
彼女は黒毛の僕を見つけると、楽しげに、悪戯っぽい笑みを浮かべて声を掛けた。
僕は一度した約束は守る程度の男であるが、女性の前で憚りなくムシャムシャと物を食べることはどうにも抵抗が強かった。何せ食事中というのはひどく無防備なものだ。
従って、僕は毎度、この草原ではない場所で食事を済ませてから、たらふくの腹を引き摺って、彼女に会いに行くのだった。
「もう入らないというくらいまで、満腹のぱんぱんですよ。でも他ならぬ貴女の為ですので、僕は喜んでこのような姿になりましょう。」
「貴方、益々素敵におなりよ。段々と肉付きも良くなってきて、健康そのものですわね。私、身体の丈夫な方も好きよ。」
僕と彼女の逢瀬が重なるごとに、僕はどんどん体を大きくさせ、彼女は毎度毎度、自分事のように喜んでくれた。
僕はこの世に産み落とされて初めて、生きる意味を得た気がした。彼女に褒められる度、彼女の顔が笑みでくしゃっとなるのを目にする度、胸が高鳴って大層幸せな思いなのだ。
寛大な彼女に比べれば僕はまだまだ小さい男だが、いつか体も大きくなって、溢れんばかりの自信の鎧を纏った暁には…。