片づけを終え、鍵を閉めて美術室を出る。陽が落ちた通学路を歩きながら、やるせない気持ちを抱いた。


蓮と二人で下校するのが僕らの当たり前だった。ご飯とか絵とかテレビとか漫画とか、たいして中身のない話をするのが好きだった。

年頃の男子は、女子の身体がどうだとか経験値がどうだとか、品のない話ばかりするから苦手だった。思い返せば、僕と蓮がそんな話をしたことは一度もない。

だから楽だったのか、だから一緒に居たのか、だから好きだったのか。多分全部だと思う。


僕ときみは、黒尾 織と風見 蓮でいるためにお互いが必要だった。フツウに生きるための抑制剤であり、フツウではいられなくなる麻薬だった。

フツウフツウって、フツウでいることのなにがそんなに偉いんだ。面白い人材は好かれるんじゃないのかよ。僕たちはフツウじゃなかった。男なのに男が好きって、面白いだろ。面白いけど、気持ち悪いことじゃない、はずだろ?


なあ、どうして、なんで。可笑しいのは、色々な感情に適応しないこの世界じゃないのかよ。


白井文花もそうだ。ただ振られて泣くのは、恋をする人間として仕方のないことなのかもしれない。けれど「キモチワルイ」と、女であるのに女を好きになることを否定されるのは可笑しい。

間違っていなかった。きみは正しい。衝動的にキスをしたくなる気持ちは、人間ならわかる人も多いはずじゃないのか。


蓮の横顔が好きだった。きみの絵を完成させてしまったら、もうきみの横顔をこんなにも長く、まじまじと見ることはできないと思ったから、いつもよりゆっくり描いていた。


きみの横顔が、じゃない。

風見 蓮のことが。
僕「は」───僕「も」、好きだった。