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「………何?このにおい…。」
馬小屋にて客人の輓馬に水を与えていたティーは、妙な物音と臭いに気付いた。
何かが爆ぜるような音と、焦げ臭さ…。不安に思い、主人と客人がいる応接間の塔を見上げれば、
「……えっ!」
窓から真っ赤な炎が噴出している。
窓のカーテンもすべて燃え尽き、その中に立ち尽くす人影を発見する。
小さな背丈のその人影を目にした途端、
「……だ、旦那様…!!」
ティーは居ても立っても居られず、塔の方へ走り出した。
向かう途中、大広間に甲冑と共に飾られていた、細身の戦斧を手に取る。大戦時、実際に使われていた武器の一つだが、今では彼女の護身用程度の使い道しかない。
「!!」
塔を駆け上がり、応接間の前まで辿り着いたティーは、見慣れたはずの扉の異変に気づく。
扉の微かな隙間から、真っ赤な光と熱気が漏れ出している。そして扉の叩き金もドアノブも、室内の炎により熱を持ち、真っ赤に染まっているのだ。
この中に取り残された人間が、無事でいられるはずがない。
「…だ、旦那様!!旦那様、返事をしてください!!」
たまらず、扉の向こうに居る主人に向かって叫んだ。
しかし室内の焼け崩れる音に掻き消され、それ以外の音が聞こえない。
ティーは斧を振りかぶり、ドアノブ目掛けて思い切り叩き付けた。
「……うっ!」
金属と金属の重い打撃音が響く。
しかし、一度の打撃ではビクともしない。
「…旦那様!!今、助けますから…!!」
ティーはなおも声をかけ続けながら、何度も何度も斧を振り続けた。