バルトールの体から突然火の手が上がった。

「っ!」

長テーブルの反対側にいても感じる猛烈な熱風。無情王は咄嗟に顔を手で庇う。

炎はバルトールの体を瞬く間に包み、衣服や皮膚を燃やしていく。
炎の中で立ち尽くす彼の体も形を歪めていき、その質量を2倍、3倍と増していく…。炎は勢いを強め、応接間に散らばっていた贈り物を次々と飲み込んでいった。

部屋中が猛火に包まれ、無情王の背面の窓にまで及ぶ。炎は窓硝子を液体のように溶かし、外へと噴き出した。
無情王の体は、とうに炎の渦の中。

「……っ!」

しかし奇妙なことに、幼い少年の体は焼け爛れない。
炎の熱が衣服や肌を撫でても、その熱が彼を傷付けることはなかった。


「……ティー…!」

こんな状況下で無情王の気掛かりは、この城の中にいるただ一人の使用人。

炎に気づき、駆けつけるだろうか。
それとも主人の言い付けをきちんと守るだろうか。

『…ティー。部屋から出て行って。
何があっても中へ入るな。』

あの言葉は仕事の邪魔をされたくないからではなく、ティーを危険から遠ざけるための意味があったのだから。