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「…えいっ!!」

ティーの振るった斧の一撃が、扉のドアノブを破壊した。

「だ、旦那様!!」

斧の柄を使い扉を押し開けると、高温の熱風が襲い掛かってきた。

咄嗟に腕で顔を庇うティー。その直前、彼女の視界にはハッキリと映っていた。
山のような巨体を見せつける、金の竜の姿が。

「……ど、どうして、…竜が…っ!?
まさか、旦那様、を…っ。」

ティーの顔が急激に青ざめていく。
振り返った竜の青い瞳は、ティーの姿をしっかりと捉えていた。

【…ティエルナ。
お前のような人間に、“あの方”を渡しはしない…!】


体を翻したフィクシオは、前脚でティーの細い体に掴み掛かった。

「あうっ!!」

ティーの体に、圧力による強い痛みが走る。
腹部と胸を圧迫され、呼吸が一気に困難になる。体中の感覚が正常に働かなくなるほどに。

斧をその場に取り落とし、ティーはグッタリと動かなくなってしまった。


その姿を見た無情王は、

「……っ!!」

目を大きく見開く。
そして、さっきまでの平静も、達観も、無情も、すべてを無かったことにするかのような、激しい怒りを露わにした。

「…フィクシオ、貴様ぁッ!!」


業火の中で無情王が叫ぶ。が、その声がティーに届くことはなかった。

叫ぶより早く、フィクシオがティーを捕らえたまま、その場で強く床を蹴ったからだ。
巨体は宙に浮かび上がり、石造りの天井をいとも容易く突き破る。

「待て!!」

フィクシオは塔の屋根を破壊して外へ這い出ると、横殴りの雨が降り注ぐ天を仰いだ。
透き通る一対の羽を限界まで広げ、今にも飛び立とうとしている。

その姿を、ティーは力無く見上げた。
体格の違いすぎる竜に掴まれ、か弱い人間の体には相当のダメージだ。
腹部に強く食い込む竜の爪。そして応接間を焼き尽くした業火。それらに、ティーは確かに見覚えがあった。

「…また、あの時と同じ……。
貴方達はわたしから家族を……そして、大切な旦那様まで……っ。」